6月1日(日本時間2日)、世界中の有名シェフにとって一大事ともいうべき発表があった。「ワールド・ベスト・レストラン」の発表である。「ミシュランガイド」に比べると知名度は劣るが、日本のレストランが初のベストテン入りを果たしたこともあって、日本テレビが番組『news every.』で特集を放映するなど、国内での認知もだいぶ高まってきた。
トップテン入りした日本のレストランは、すでにベスト50ランキングでは常連の「ナリサワ」(8位)。他の日本勢は「龍吟」(29位)、「レフェルヴェソンス」(85位)、「ハジメ」(86位)で、ベスト100には計5店がランクインしている。
ちなみに美食大国フランスのベスト100入りは8店で、最高位は11位にとどまっている。一方でアメリカを見れば、5位の「イレヴン・マディソン・パーク」を筆頭に、実に15店がベスト100にランクイン。そのうち8店がニューヨークなので、アメリカのたった1都市の店数が、フランス全土の店数に匹敵する格好となっている。
また、ワールド・ベスト・レストランがその本拠を置く英国は6店。アメリカの15店には及ばないが、日本をしのぎ、フランスに迫る勢いである。ちなみに最高位は7位なので、その意味ではフランスに勝ってさえいる。また世界的にその料理で人気が高いイタリアはといえば、わずか3店にとどまっている。
「ナリサワ」のベスト10入りは、観光大国政策を見据えた「国益」から考えれば、「慶賀」とすべきであろうが、どうにも理解に苦しむ「国家間バランス」ではある。特に「アメリカやイギリスに美味しい店などあるのだろうか?」と思っている人は日本人に限らず多いと思われ、ある意味ショッキングなランキングかもしれない。少なくとも、フランス人やイタリア人の「グルメ」はさぞ憤慨しているか、一笑に付しているに違いない。
筆者がアメリカで足かけ6年暮らした経験からすれば、ニューヨークのレストランのレベルは非常に高いという印象を持っているし、ランクインした顔ぶれもミシュランで高評価を得ている店ばかりなので、ひどく唐突とも思えない。ただ、繰り返しになるが、ニューヨーク1都市とフランス全土のベスト100レストランの店数が同じというのは、あまりにも乱暴ではあるまいか。
ちなみにミシュラン(2015年版)が世界で最も多くの三つ星を与えた都市は東京(12店)で、2位の本国パリ(9店)を引き離し、さらに京都でも7店に三つ星が付いている。ワールド・ベスト・レストランで圧勝したニューヨークは6店。日本人としてはありがたいというほかのない高評価であるが、やや奇異な感も否めない。
いずれにしても、ミシュランとワールド・ベスト・レストランの日本レストランに対する評価は著しい隔たりを見せている。後者で日本勢がベスト50入りを果たしたのは09年が最初(「ナリサワ」)で、それ以前はほぼスルーといってよい状況であった。近年、日本勢のランキングが上昇傾向にあるのは、すでに世界的な権威となっているミシュラン寄りに「調整」をしているかにもみえる。