とんとん拍子のように映るが、実はワンマン経営の限界の中で苦悩する修氏を補佐する立場として、長い間、側近で共に悩み、苦労をした。実父が苦悩した組織の解決を目指そうとする、強い決意と責任感を学んだと考えられる。実の父親の気持ちを誰よりも肌に感じながらも、どこかで踏ん切りを付け、一歩踏み出さなければ、スズキの未来は訪れない。
俊宏氏は縦割り組織の弊害を排除すべく、「チームスズキ」による組織的な経営を進める考えだ。若返ったスズキの経営幹部と横断的に議論を重ね、その力を借りてチームスズキを構築していく考えである。カリスマ経営者である修氏の背中を追うのは大変なことだ。しかし、未来のスズキの発展には、チームスズキの組織力を磨かねばならない。これは、天性の経営者である修氏の側面支援が健在なうちに実現できれば、多大な相乗効果が生まれるだろう。
名経営者の第二幕の始まり
ワンマンな中小企業のおやじの第一幕が下りたにすぎず、チームスズキを側面から支援する第二幕が今始まったのである。組織を統括し、事業面の執行を統括するのが社長である俊宏氏となり、修氏は取締役会長として大局的な経営戦略の構築、監視、対外的な提携戦略などを担当しながら社長をサポートする立場となる。
当然、生涯現役を標榜する修氏がスズキの経営から引退することは、まだまだ遠い将来のことと考えるべきだ。適切な距離を保ち、若いチームスズキに自由にやらせることを修氏は肝に銘じるべきだろう。脆弱な組織力と若い経営者を中心とする現在のスズキが意思決定の混乱に陥っては、未来の発展は非常に厳しくなっていかざるを得ない。
相談役になっても実権を握り、経営執行から人事まで多大な影響力を及ぼす「老害」経営者が多く世には存在する。名経営者として名をはせた修氏の晩節がそのような安っぽい姿になるとは想像もできない。「これぞ名経営者の晩節のまっとう」と称賛される素晴らしい第二幕を修氏は演じることだろうと、今から楽しみだ。
「業務執行については、アドバイスはするが、若いチームスズキが『わいわいがやがや』と、どういう結論を出すのか、おおらかに見届けていきたい。あまり口を出さないと痴呆症になってしまうので、適当にはやっていきたいと思うが、円滑にやっていけるよう見届けていくつもりなので、ぜひ実績を見ていただきたい」
記者会見に挑んだ修氏はこう言って会場の笑いをとり、37年間に及んだ中小企業のおやじの歴史の第一幕を下ろした。
(文=中西孝樹/ナカニシ自動車産業リサーチ代表 兼 アナリスト)