今年1月で85歳になった軽自動車メーカー、スズキの鈴木修会長兼社長は5月11日の決算会見で、こう語った。今後5年間に順次、年長役員の若返りを図る。すでに田村実副社長と相澤直樹取締役専務役員の退任が決まっている。人事の刷新を行いながら、鈴木氏は事実上「90歳まで続投」を宣言したわけだ。90歳まで東証1部上場企業のトップを務めるのは異例だ。
鈴木氏は長男の俊宏副社長を後継者に決め、2011年に俊宏氏を含め4人を副社長に昇格させ、年長の役員たちが長男を支える集団指導体制に移行したが、今回、長男を支える年長者グループを若手幹部に入れ替えることにした。
もっとも、鈴木氏には辞めるに辞められない事情がある。
09年、世界の自動車業界に衝撃が走った。スズキと独大手フォルクスワーゲン(VW)がイコールパートナーの立場で包括提携に踏み切った。VWはスズキ株式を19.89%、スズキはVW株式を1.5%保有したが、同床異夢だった。VWの狙いはスズキを完全に取り込み、子会社にすることにあった。
11年、VWは年次報告書でスズキを「持ち分法適用会社」と位置付けた。これにスズキが「話が違う」と激怒。同年9月、スズキはVWとの資本提携解消を決め、VWが保有するスズキ株式の買い戻しを求めた。しかし、VWが応じないため11月、スズキは国際仲裁裁判所(英ロンドン)に仲裁を申し立てた。VWが保有するスズキ株式を、スズキまたはスズキが指定する第三者に売り渡すことを求めた。
「VWとの交渉に当たった俊宏氏がリーダーシップを発揮できず、加えて経済産業省大臣官房審議官だった原山保人副社長が強硬一辺倒だったため、VW側は態度を一層硬化させた。2人とも後継者としての力量不足をさらけ出し、結局、修氏が交渉の前面に出てこざるを得なくなった」(自動車アナリスト)
新パートナー選び
国際仲裁裁判所での仲裁は大詰めを迎えている。VWは今年3月に公表した年次報告書で、「15年前半には結論が出る見通し」と述べている。
スズキは昨年12月9日、発行済み株式の20%に当たる1億1221万株を上限に、自社株の取得枠を再び設定した。自社株取得枠の設定は4度目。VWが保有する株式の買い戻しに備えて、再設定したわけだ。スズキはVWの保有株を、すんなり買い戻すことができるのか。
もし、買い戻しができたとしても、新しいパートナー探しが待ったなしでやってくるが、伊フィアット・クライスラー・オートモービルズの名前が挙がる。かつて資本提携していた米ゼネラルモーターズ(GM)と、よりを戻す可能性もある。成長が期待されるインド市場に魅力を感じているトヨタ自動車との見方も強い。