議決権行使助言会社が行った助言には、株主たちの投票に反映された部分とそうでない部分が出た。
個別投票となり、最も得票率が高かったのが第2号議案の2名で、それぞれ94%強を獲得した。この2名は瀬戸氏側候補と自認していたが会社側も候補としていたので、両方から支持が集まった。
それ以外の全候補のなかで最も得票率が高かったのが濱口大輔氏で、64%強を獲得した。これは、グラス・ルイスが「瀬戸氏側候補のなかで唯一、濱口氏を推奨する」としたことの影響とみられる。ちなみに、当選した他の全候補とも得票率は50%前半で、全員が辛うじての当選となっていた。
落選した2候補はISSが「反対投票」を推奨した結果だ。2社が推奨した「瀬戸氏側候補への全体としての反対投票」は効を奏さなかった、ということが重要だ。
結果として、瀬戸氏側候補の選出数が会社側候補の数を上回り、瀬戸氏側に勝利をもたらしたことになる。2大助言会社の推奨は「骨」のところで反対の結果となったことになる。
繰り返すが、3つの議案ごとだけでの投票だったとしたら、会社側2人の落選はなかったと思われる。そうすると、瀬戸氏側が全員当選したとしても、8対8の同数となり、総会後の取締役会でCEO選出をめぐり大いにもめることとなっただろう。
会社提案が精査選別される時代の幕開けか
LIXILの株式で、機関投資家の持ち分は約30%弱だ。機関投資家は基本的にスチュワードシップにより、議決権行使助言会社の意見を参考にしなければならないとされている。そして、個別の議決案件への投票について開示しなければならない。
このような縛りのなかで、米インダス・キャピタル・パートナーズや英マラソン・アセット・マネジメントなどの機関投資家は総会の事前に瀬戸氏側への支持と投票を明らかにしていた。さらに、助言会社が推奨しなかった瀬戸氏側候補が全員選出されたということは、LIXIL全株式の約40%を占める海外株主を含めて、個人株主などが雪崩を打って瀬戸氏のカムバックに票を投じたということだ。
株主総会で会社側提案が実質的に否決されることは珍しいことだし、LIXILのような大会社では稀有の出来事となった。
私は、今回の事例によって議決権行使助言会社からの助言の関与度が下がってくるとは見ていない。むしろ、助言会社の助言がこれほどまでに注目されたことはなかったし、これを機会に機関投資家はいっそう慎重に助言会社の推奨リポートを参照する度合いが高まっていくと見ている。
その上で、機関投資家も個人投資家も、これからは会社側提案を簡単に鵜呑みにして白紙委任状を出す率が下がっていく方向に進んでいくのではないか。
いわゆる「シャンシャン総会」の比率が下がっていき、総会で議決議題について会社側と株主側の真剣な討議を交わしていく傾向となる。その結果、株主総会の開催時間は長くなるだろう。特に総会の前年度で大きな経営課題をさらけ出した会社ほど、厳しい株主総会に直面することを覚悟しなければならない。
考えてみれば、その方向は健全な株主資本主義の現出ともいえる。後世になって、今年のLIXIL株主総会は「株主総会のあり方」の大きなターニングポイントだったと振り返られるかもしれない。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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