副業を自由化すると、技術書を執筆するエンジニア、サイボウズで週3日働き、ほかの日は他社で働く社員、NPO活動に参画する社員などが出てきたが、情報漏えいなどの問題は発生していない。むしろ、副業で得た人脈からさまざまな話が持ち込まれるなど、メリットが生まれるようになったという。
こうした制度が整備されても、それらが趣旨通りに運用されるかどうかは、組織風土が関わってくる。同社は社員に、問題だと思ったことは自分から提起する「自立と議論の文化」を周知徹底させている。
例えば、「働くお母さん社員ばかりが優先されていて、不公平な感じがします。私は毎日、15時に帰る人の仕事をフォローしています」と酒の席でこぼす社員に対して、青野氏はこう諭している。
「じゃあ、あなたはどんな制度が欲しいのですか? ほかの社員の分まで働くことを支援してほしいのなら、言ってください。必ずテーブルに上げて議論の過程をオープンにして、可能であれば制度に盛り込みます。酒場で愚痴るのは卑怯です」
社長自ら2週間の育休を取得
その成果として、営業マンからこんな提案が上がった。
「出張先で、移動の合間にスターバックスコーヒーで仕事をするので、コーヒー代を出していただけますか?」
青野氏は「コーヒーはお前が飲むんだから、自分で払えよ」と思ったが、「空き時間までがんばって働く姿勢は良い」と考え直し、コーヒー代の補助制度を設けた。
「欲しいと思う人事制度は提案する会社なので、サイボウズの社員は大変です。酒場で愚痴を言ったら、ほかの社員から詰められます」(同)
しかし、制度化されても、社員が新たな行動を取るには勇気が必要だ。そこで不可欠なのがリーダーの率先垂範で、青野氏は2010年に2週間の育児休暇を取得した。
「東京証券取引所第一部上場企業の社長が育休を取った」として話題になったが、社内では、男性社員の育休取得に引け目がなくなったという。
青野氏は4カ月前に3人目の子供が生まれたため、現在は保育園に通う上の子供のお迎えのために毎日16時に退社している。「お先に失礼します!」と社を後にする青野氏を見て、社員は「この会社では、子育てで早く帰るのはありなんだ」とあらためて認識するようになり、それまで申し訳なさそうに退社していた社員も、堂々と退社できるようになったという。
サイボウズの取り組みは「働き方の公明正大化」である。工場や店舗など現場を運営する職場では、ここまでの自由化は難しいかもしれないが、制約条件を並べる前に、柔軟に可能性を追求したほうが合理的だ。企業価値は、株主にとっては株式の時価総額だが、その礎となるのが、社員にとっての“在籍価値”である。
(文=編集部)