上場企業ゆえのジレンマ
アプリのダウンロード数を増やすために、もっとも効果的なのはテレビCMだという。クラシルは女優の木村文乃を、デリッシュキッチンは木下優樹菜や嵐の二宮和也を起用し、大々的にテレビCMを流している。
新興のスタートアップ企業が莫大な広告費がかかるテレビCMを打てたのは、大規模な投資を受けていたからだ。クラシルはヤフーから約93億円、デリッシュキッチンはKDDIから30億円の出資を受け、主に新規ユーザー獲得のための宣伝費に活用した。
「スタートアップ企業は創業から数年は赤字になる傾向にあります。実際、直近の決算ではクラシルは約30億円、デリッシュキッチンは約23億円の赤字となっています。創業期であればシェア獲得のために赤字になっても出資者は納得しますが、上場企業のクックパッドは、むやみに広告費を増大させて赤字になると株主から批判を浴びる可能性が高い。そのため、保守的にならざるを得なかったんです」と、久保田氏はクックパッドの置かれた現状を分析する。
そこで、クックパッドは18年4月に法人としてのCookpadTVを設立し、料理動画事業を分社化した。そして、8月には三菱商事から40億円の出資を受けると発表。10月からは乃木坂46のメンバーを起用したテレビCMを放送し、クラシルやデリッシュキッチンを追い上げ始めている。
しかし、先行するクラシルやデリッシュキッチンも多くのユーザーの取り込みには成功したが、有料会員を増やして黒字化するまでには至っていない。そこに割って入ったcookpadTVはかつての栄光を取り戻せるのか……料理レシピサービスの熾烈な主導権争いはしばらく続きそうだ。
(文=奥田壮/清談社)
●取材協力/久保田 大海(くぼた・ひろみ)
編集者。最新のビジネストレンドの本質をわかりやすく伝えるWEBサイト「KOMUGI」を運営。米ニューヨークに本社を置く大手仮想通貨メディアCoinDeskの日本法人立ち上げメンバーであり、現在CoinDesk Japan編集長。