この問題の根幹は、利益の水増しだ。重要なポイントは、経営陣まで関与したといわれる問題の深刻さだ。市場関係者は全貌が見えないがゆえに、東芝の先行きに不安を抱いている。
当初、東芝の不適切会計は、インフラ関連事業における工事原価の過小評価、費用計上の先送りが原因と考えられていた。それ自体、国際的な電機・重電メーカーとしての東芝の信用を大きく傷つける出来事だった。
ところが5月に入ると、東芝は決算発表の延期、業績予想の開示の取りやめを発表し、市場参加者の懸念は一段と高まった。この段階では14年度決算期までの3年間程度で、営業利益が500億円程減少すると発表された。
さらに7月に入り、新たな局面を迎えた。過去5年間で総額1600億円程度の営業利益が水増しされてきた可能性が高まったのだ。そして不適切会計の範囲は、半導体、パソコン、テレビといった同社の主力事業にも広がった。これだけ広範囲に不適切会計が行われていたとなると、組織ぐるみの行動であることはほぼ間違いないだろう。東芝という企業組織全体の問題であり、経営そのものに関わる重大事件だ。
機能しなかったガバナンス
過去に、社外取締役からは東芝の業績見通しなどに対する疑問が呈されたこともあったようだ。しかし、そうした指摘は見逃され、結果として同社のガバナンスは充分に機能しなかった。東芝は、一定数の社外取締役を選任し、形式上は経営の透明性とモニタリング、けん制機能を備えたガバナンスを整備してきた。それでも、不適切会計は防げなかった。
考えるべきは、なぜ東芝という歴史と実績のある企業が、そうした問題を放置したかという点だ。その背景には、各事業部門間の競争や対立、上司や経営陣への配慮など、経営の合理性や説明責任とは異なる利害が働いた懸念がある。
この背景として、年功序列や終身雇用など、日本の伝統的な組織運営の発想が経営に影響した可能性も無視できない。事態が早急に解決されてこなかったことを考えると、過去の経営陣に対する配慮などもあったのだろう。