これらの問題に共通しているのが、今後成長する分野を見抜く「目利き力」や社長の資質の重要性である。では、どんな条件を兼ね備えた企業が将来にわたって成長し、逆にどんな企業が市場から退場を余儀なくされてしまうのだろうか。また、経営における「目利き力」は、どのように涵養すればいいのだろう。さらに、会社を長生きさせ、成長を続けるための条件とは何か。
6月に出版された『御社の寿命 あなたの将来は「目利き力」で決まる!』(中央公論新社/帝国データバンク情報部、中村宏之著)は、信用調査会社最大手の帝国データバンク(TDB)が保有する膨大な企業データを、同社の藤森徹情報統括部長と読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員の中村宏之氏が分析・解説した斬新かつ異色の経営書となっている。
本書のポイントは、大きく2つある。ひとつは、主に金融機関に関係する部分が大きいが、企業の将来性や危うさを的確に見抜く「目利き力」の重要性だ。もうひとつは、会社を経営する社長の見識や力量の重要性である。
本書はまず「目利き力」とは何かという点について、多くの事例を紹介している。「目利き力」とは、別の表現をすれば「事業性評価力」、つまりは将来の成長を見抜く力である。ここで特徴的なのは、過去の倒産事例を分析することで、多くの教訓を見いだしている点である。「こんな経営をしていると会社はつぶれてしまう」という警告を発するとともに、それを見抜くためのヒントを紹介している。
2012年、西日本で倒産したパン・ケーキ製造のA社は、積極的な企業の合併・買収(M&A)を繰り返して業容を拡大したが、借入金が年間売上高の約半分を占めるまでに膨らみ、資金繰りが急速に悪化した結果、裁判所に破産を申請した。
経営破綻後に判明したことだが、この会社は決算を粉飾し、複数の帳簿を作って多くの銀行から資金を借りていた。しかし銀行側はそれに気づくことなく、他行の動きを見ながら横並びで融資していた。
唯一、A社の経営に不安を感じていたのは、ある地方銀行の支店長だった。この支店長がA社のある店の開店セレモニーに届いた花輪の送り主を一つひとつチェックしていたところ、取引先としては認識していない銀行からの花輪がいくつもあることに気づき、ほかの融資先があることがわかった。
不審に思ったこの支店長は、少しずつ自行融資の回収を始めたが、全額を回収する前にA社は倒産した。損失こそ出たものの、「花輪の異変」に気づいた支店長の「目利き力」が光った事例である。