5つの「弱い」と「ない」
このほか、別の事例もある。会計帳簿上、B社が扱っていたティッシュペーパーの在庫は、800億円分あるとされていたが、個数に換算すると約16億箱となった。ある銀行員は、「16億箱もの在庫を実際に収容できる倉庫などあるのか」と考え、粉飾決算を見抜いたという。
このように大きさをイメージして考える姿勢などは重要であり、本書ではこうした事例を多く紹介して、金融機関の関係者などにも有用な「目利き」のポイントを詳しく解説している。
本書のもうひとつの特徴は、社長の特質に注目して、生き残る会社と消える会社の違いを分析した点である。さまざまな考え方があるが、企業の寿命は最終的には社長の判断能力や力量に左右されるところが大きい。
TDBでは、全国にいる約1700人の調査員が調査依頼のあった企業を直接訪問し、社長や幹部に面会するほか、社内の様子、人や荷物の出入りなども細かくチェックしている。決算書などの財務諸表の分析や業績のヒアリング、登記情報、取引先の評判などをまとめて、企業の成績表ともいえる「点数(評点)」をつけているのだ。
「数値化」できる定量情報、具体的には決算書など財務諸表から読み取れる情報を重視するのは当然だが、「社長の評価」である定性情報も同様に重要である。多くの企業倒産や、倒産に至らずとも経営が傾いた企業の社長を分析すると、一定の傾向が見えてくる。
本書で紹介されている「会社をつぶす社長の10のポイント」は示唆に富んでいる。まず、以下のような「5つの弱い」を挙げているのだ。
1.「計数面が弱い」
2.「朝が弱い」
3.「決断力が弱い」
4.「パソコンに弱い」
5.「人情に弱い」
というものだ。次に、「5つのない」を指摘している。
1.「計画性がない」
2.「情報がない」
3.「リーダーシップがない」
4.「危機感がない」
5.「人脈がない」
具体的な内容は本書に譲るが、これら10のポイントは企業を見抜く上で重要な着目点といえるだろう
このほか、TDBが14年の株式会社と有限会社の114 万超のデータを分析したところ、社長の平均年齢は59.0歳と過去最高を更新した。一方で、社長が交代する比率は低く、事業承継にも時間がかかっており、特に中小企業にとって好ましくない状況が続いている。
こうした状況を踏まえて、経営者はどう対応すべきなのか、また取引金融機関はどんな点に注意しなければいけないのか。本書は多くのヒントを提供している。
(文=編集部)