至るところで日本を侵食している少子高齢化は、意外な分野にも影響を及ぼし始めている。例えば、日本の医療を裏から支える献血業界だ。
2013年度の献血者数は約516万人、総献血量は200万リットルで、ピーク時である1985年の約870万人から大幅に減少している。献血量が減っても需要を満たすことができているのは、医療の高度化と献血体制の変化に要因がある。
かつて大量の血液を必要とした手術は、医療技術の進化で切開すること自体が少なくなったことに伴い、必要な血液量が減少した。現在、手術などで使用される血液量は、全体の3%ほどだ。
また「以前は出血と同量の輸血をしていましたが、いまは必要な分を補う方針になっている」(厚生労働省医薬食品局血液対策課)というように、輸血の現場にも変化が見られる。さらに、血液中の特定の成分だけを献血する成分献血の導入なども血液の効率的な使用につながり、献血者数の減少をカバーしている。
現在、血液を多く必要とするのは、がんや白血病の治療だ。これらは、少子高齢化で患者数の増加が見込まれるため、今後、血液の需要が増加するとの見方が強い。
しかし、遠くない未来に、血液が不足する危機が訪れそうだ。すでに、15年は約5万人分の血液が不足すると試算されており、厚生労働省は、27年には約85万人分の血液が不足するとシミュレーションしている。28年以降は、さらに血液不足が深刻化する模様だ。
献血には、血液提供者の健康を考慮して69歳までの年齢制限が課されている。現在、献血者のメインである40~50代が年を重ね、献血ができなくなると、献血量がさらに減少することは明らかだ。
顕著な若者の献血離れ
40~50代の献血者が多いのは、社会的な環境によるところが大きい。現在の献血体制は、64年の閣議決定を嚆矢とする。きっかけは、駐日アメリカ大使のエドウィン・O・ライシャワー氏が暴漢に襲撃されたことだ。ライシャワー氏は手術で一命を取り留めたが、その際受けた輸血によって肝炎に感染する。当時は厚生省や日本赤十字社といった公的機関による献血事業のほかに、民間の血液銀行が血液を採取していた。