前述の東京電力、関西電力、九州電力のでんき予報を見ても、そのことは明らか。今夏は、自社で発電できる電力を温存し、新規参入事業者が太陽光で発電した電力を買い取って供給したから、以前のように使用率が上昇せず、需給のひっ迫を回避できたのである。そして、太陽光発電の稼働率が下がる夕方になって自社設備の稼働率を上げたから、供給のピーク時間帯が夕方にシフトする現象が起きたのだ。
電力会社の言い分を鵜呑みにして、過酷な節電を企業や国民に強いたうえ、血税を補助金でばら撒こうとしたのだとすれば、政府・経済産業省にはきっちりと責任をとってもらうべきだろう。見積もりがいい加減なのは、新国立競技場計画だけではない。
高騰する電気料金
ただし、我々消費者は、節電の心配がなくなったからといって、電気を無駄遣いするのは危険である。
全国民が使用電力に応じて負担義務を負っているFITの再生可能エネルギー発電促進賦課金が、1年前は300キロワット使用で月額225円だったものが、今年度470円に跳ね上がっており、月々の電気料金を押し上げているのだ。
しかも、稼働が本格化したとはいえ、FIT電源として認定を受けた電源の運転開始は今年4月段階でまだ23%と全体の4分の1以下に過ぎない。今後、残りが稼働すれば、単純計算で、1世帯当たり年間2万2560円程度の再生エネルギー発電促進賦課金が必要になり、これが各家庭の電気代に上乗せされる。そんななかで、無駄遣いしていれば、電気代が家計を圧迫することを肝に銘じておく必要がある。
今夏、FITの賦課金などでべらぼうな発電コストを負担させられるとはいえ、太陽光発電で思わぬピーク電源を確保でき、ようやく電気が足りないという最悪の事態のリスクが解消に近づいた。
こうなれば、新たな、そして最大の課題は、電力コストの引き下げだ。
昭和30年代から政府や電力会社が低コストと宣伝し続けてきた原発は、福島第一原発事故の損害賠償や安全対策、使用済み燃料の中間貯蔵・最終処分などのコストを勘案すれば、それほど低コストか疑問が残る。再稼働して採算のとれる原発は意外なほど少ないだろう。
だとすれば、現状で最もコストの低い石炭火力発電へのリプレースを加速しつつ、地球規模の課題である温暖化ガスの排出削減を両立することこそ急務のはずだ。
政府は無責任としか言いようのないいい加減な見積もりをやめて、真摯に取り組むべきだろう。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)