次に開発期と量産初期の投資を回収できるのは、機体メーカーが開発した航空機が本格量産に入り、大量に就航した航空機のエンジンの定期分解整備、修理、部品交換などの需要が発生する「アフタービジネス期」に入ってからという息の長さだ。このため、エンジン開発に失敗したり、機体メーカーが需要を読み誤って航空機が計画通り売れないと、エンジンメーカーはたちまち経営危機に陥る。実際、ロールス・ロイスは開発の失敗で1971年に倒産、国有化(その後、サッチャー政権時代に再民営化)の辛酸を嘗めている。
ビッグ3は80年代からこのビジネスモデルの開発リスクを分散するため、高圧タービンなどの中核エンジン部品の開発は社内に囲い込むものの、それ以外のエンジン部品開発は世界中から協力会社を募る国際共同開発方式を採用している。国際共同開発方式にはリスク分担度合いに応じて「リスク&リベニューシェアリングパートナー(RSP)」「プログラム・パートナー」「サプライヤー」「サブ・コントラクター」の4種類がある。
RSPは開発費を分担出資する一方、量産期以降は出資比率に応じた売上高の配分を得る。開発失敗、開発計画遅延などで損失が出れば、出資比率分の損失も被るリスクを負っている。したがって、ビッグ3とRSPは開発プロジェクト単位の資本・業務提携関係といえる。
プログラム・パートナーは、出資しないが開発から生産までの特定工程を一貫して分担する協力会社で、業務契約で定めた範囲の開発・生産・販売・為替に関するリスクを負う協力会社。
サプライヤーはビッグ3やパートナーが定めた仕様に従いエンジン部品を開発・生産する協力会社で、サブ・コントラクターはビッグ3やパートナーが貸与した設計図に基づきライセンス生産を行う協力会社。いずれも出資とリスクの分担義務はない。両者は一般の下請けメーカーといえる。
国内メーカーでは重工御三家のみがビッグ3のRSPとして、これまで各種の開発プロジェクトに参加している。
ロングシャフトの製造技術
IHIの航空機ジェットエンジン事業は、1950年代の米軍戦闘機F-86に搭載するエンジン部品のライセンス生産から始まった。そこで培った技術を踏み台に自衛隊の戦闘機向け小型ジェットエンジン生産事業に参入。自衛隊の主力戦闘機F-15J、支援戦闘機F-2、同F-4EJ、中等練習機T-4などに搭載するエンジンを生産していた。