そうして蓄えた技術を引っ提げ、同社がエンジン部品事業に参入したのは83年だった。日、英、米、独、伊5カ国によるエアバス「A320」向けジェットエンジン「V2500」の国際共同開発プロジェクトにRSPとして14%の開発費を出資・参画したのが始まりだった。以降、ボーイング「B777」向けエンジン「GE90」(開発費9%出資)、カナダのボンバルディア「CRJ」向けエンジン「CF34」(開発費27%出資)、ボーイング「B787」向けエンジン「GEnx」(開発費15%出資)などの国際共同開発プロジェクトに参画、エンジン部品メーカーとしての頭角を現してきた。
IHIがビッグ3の国際共同開発プロジェクトにRSPとして参画できたのは「ロングシャフト」(長尺の動力伝達装置)の製造技術に強みを持っていたからだ。エンジン1基に1個しか必要のないロングシャフトは生産効率が悪いため、国際共同開発プロジェクトに参画できるようなエンジン部品メーカー大手は内製せず、中小の部品メーカーに外注するのが普通。ところが、機械加工が得意なIHIのみは内製し続けていた。
そして、エンジン本体の大型化が進むに従ってロングシャフトも長くなり、今では3m級が使われている。ところが、高精度で真っ直ぐな3m級のロングシャフト製造は技術的に難しく、これも気がつけば同社の製造技術が世界一になっていた。生産効率が悪くても愚直に内製と技術改良を続けた成果といえる。今では大型エンジンの約7割がIHI製になっている。
収益安定確保のビジネスモデル確立
RSPとしてエンジン部品の開発・生産に乗り出して足掛け30年。最初に手掛けた大型エンジンV2500は累積販売数が6000基以上(14年9月末現在、以下同)に達し、エンジン部品の増産に加えエンジンのアフタービジネスが最盛期の状態にあり、今や同社エンジン部品事業最大の収益源になっている。
また、90年から開発が始まったGE90の累積販売数は約1920基、96年に開発が始まったCF34の累積販売数は約4000基で、いずれも部品増産とアフタービジネスがフル回転しているので、年を追うごとに利益が積み上がる収益構造になっている。
04年から開発に着手、11年から量産が始まったGEnxは、日が浅いため累積販売数は約600基で、現在はまだ先行投資段階で収益源にはなっていない。ただ、GEnxを搭載するB787の受注が好調なので今後は相当な数のGEnx量産が期待されている。IHIの次期収益源になるのは時間の問題のようだ。