同社が今年5月に発表した15年3月期連結決算は1兆4558億円、営業利益は632億円、純利益は90億円だった。だが、株式市場で注目されたのはそんな目先のことではなかった。同決算の営業利益の63%を占める396億円が「航空・宇宙・防衛」部門の稼ぎによるものであり、同部門の高収益に貢献したのがエンジン部品という地味な事業だったからだ。
エンジン部品は事業サイクルの2巡目に入り、今後も安定した収益源になることが確実視されている。さらに、御三家のエンジン部品の世界シェア(推測)はIHIが70%と競合2社を圧倒(川崎重工が20%、三菱重工が10%)。「気がつけばIHIがわが国を代表する大型エンジン部品メーカーになっていた」(重工業界関係者)のだ。
IHIは、いかにしてこの地味な端役事業を花形事業に育て上げたのか。
特殊なビジネスモデル
民間航空機のジェットエンジンメーカーは世界に数十社あるといわれるが、座席100席以上の中・大型機向け大型エンジンメーカーは「ビッグ3」の寡占市場。米ゼネラル・エレクトリック(GE)、米プラット&ホイットニー(P&W)、それに英ロールス・ロイス(RR)の3社である。
民間航空機向け大型エンジンは、米ボーイング、欧州エアバスなどの機体メーカーが示した仕様に基づきエンジンメーカーが開発・生産するが、そのビジネスモデルは極めて特殊といわれている。まず開発費が数百億円から数千億円の巨額に上る。しかも、開発着手から投資回収までの期間が長く、15~20年が通常といわれている。特に開発期と量産初期は巨額の投資が先行する。収支がトントンになるのは本格増産期に入ってからといわれる。