塚田農場は価格の高さが大きな問題となっている。たとえば「宮崎県日南市 塚田農場」の看板メニュー「みやざき地頭鶏 炭火焼」は、一番少ない量の120グラムでも税別880円にもなる。ほかにアルコールを1杯注文したとすると、お通しを含めたすべての支払いは2000円近くにもなってしまう。わずか3品でこの金額は高いと言わざるを得ない。
同社には、価格の高さを指摘する顧客の声が寄せられているという。「チェーン居酒屋だが、そこそこの値段になる」「ほかの居酒屋と比べて少し価格が高いので頻繁にはいかない」との声があったとしている。
安くないのであれば、それなりの価値を提供しなければならない。
商品面に関しては一定程度、価値を提供できているようだ。たとえば、18年10月にグランドメニューを改定した際に、地鶏メニュー「骨付き塚田焼」を新たに投入したところ、これが功を奏して同月の既存店売上高は54カ月ぶりにプラスに転換したという。このことは商品面において新たな価値を生み出すことに成功した事例といえるだろう。ただ、それ以外の面では問題が山積だ。
チープなイメージが定着
やはり、イメージの低さが大きいだろう。名刺システムや浴衣接客などのイメージが強く、それによりチープ感が出てしまっており、本格的な地鶏料理を提供することで生じるはずの「本格感」がかき消されてしまっている。実際、「雰囲気を含めて、ややチープな印象があり、30歳になって、あえて誰かを連れていく店ではない。似た価格なら別の店を選ぶ」との顧客の声が寄せられているという。こうした低いイメージが全体の価値を下げており、価格に見合った店とはみなされていないことにつながっているのではないか。
こうした低いイメージを払拭するために打ち出したのが、昨年3月に東京・中目黒に開いた「焼鳥つかだ」だ。「みやざき地頭鶏」の焼き鳥を提供する居酒屋で、日本を代表するクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が店舗をデザインした。
焼鳥つかだは価格が塚田農場よりも高く、それ相応に店舗はおしゃれだ。この焼鳥つかだをテコに、塚田農場などのイメージ向上を図る考えだった。だが、現在の店舗数は1店舗にとどまり、存在感を発揮できているとは言いがたい。波及効果は極めて限定的だろう。
塚田農場のイメージを上げるには、やはり塚田農場自体の改革が不可欠だ。そこでエー・ピーカンパニーは、改革の一案として「個店志向」を打ち出した。近年は消費者のチェーン店離れが進んでいると判断し、脱チェーン店化を進める考えだ。店ごとに特徴を出すようにして店に個性を与え、それにより消費者を取り込む狙いがある。
具体的には、単一フォーマットで画一的に出店するというこれまでの戦略を改め、「会社員商圏」「都心商業商圏」「週末ファミリー商圏」の3つの商圏を設定し、それぞれの商圏に応じてメニューなどを変える戦略を推し進める方針だ。これにより、低価格チェーン店との差別化を図っていくという。
同社はこうした改革を通じて収益性の改善を図りたい考えだ。ただ、それでも改善が難しい店舗はあるとみられ、不採算店の閉鎖は今後も生じるだろう。塚田農場の閉店ラッシュは当面続きそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。