山崎製パンは「昨年2月から臭素酸カリウムの使用をやめた」(9月22付産経新聞)そうである。しかし山崎製パンは、臭素酸カリウムを使用中止したことをホームページでは伝えていない。中止の理由を、山崎製パンは「この10年で酵素製剤の種類が格段に増え、組み合わせによって臭素酸カリウムを使うよりもおいしいパンができるようになった」(同紙)としている。カビを防止するための保存料として使っていたのではなく、ましてや「危険な発がん物質だからやめたというわけではない」ということらしい。
それならば、記者会見はともかく、せめてホームページで消費者に知らせるべきではないかという疑問を抱くが、掲載することでかえって話題になるのを避けたのだろう。
山崎製パンが、良くも悪くも注目されるのは、もちろんパン類のトップメーカーであるからだが、もうひとつ「食品表示をしなければならない商品を多く扱っている」からである。同じようなパンでも、ベーカリーのようなバラ売りパンには、食品表示が義務付けられていない。
今年4月に施行された食品表示法もそうだが、加工食品は、従来から「容器包装された商品だけ」に表示が義務付けられている。
拙著『選ぶならこっち』(WAVE出版)で筆者は「表示されていない食品ほど怖いものはない」と指摘し、その具体例として「焼きたてパンより包装パンを選べ」と勧めている。それは、山崎製パンのような包装されているパンが良くてベーカリーのパンが悪いといっているわけではない。「表示されていない食品は、表示されている食品と比較ができない」ということが言いたいのだ。
ベーカリーのパンだけではない。デパ地下惣菜も、ばら売りされている商品には表示義務がない。『選ぶならこっち』でも、筆者は「デパ地下惣菜よりはコンビニ惣菜」を勧めている。
パン類だけでなく、スーパーやコンビニなどの容器包装された弁当、惣菜、菓子、日配品などは、原則、使用されている原材料と添加物はすべて表示しなければならない。ほかにも、アレルギー物質、消費期限か賞味期限、製造者の住所・氏名などを表示しなければならない。カロリーなどの栄養成分が表示されているものある。
どんな原材料や添加物が使われているのか、どんな成分がどのくらい含まれているのか、表示を見れば一目瞭然でわかる。ただし臭素酸カリウムは、山崎製パンのような使い方をする場合は表示をしなくてよいので、すべてが表示されているわけではない。
ばら売り品は成分が不明
ところが、ばら売り商品は、食品表示の対象外になる。
ベーカリーのパンで臭素酸カリウムが使われているとは思わないが、トランス脂肪酸が多く含まれている可能性があるショートニングを使っているのかどうかは、表示されていないのでわからない。
もうひとつ、ばら売りパンに不安な点がある。カロリーや塩分などの栄養成分表示も、ほとんど情報が公開されていないことだ。インターネット上で栄養成分を公表しているベーカリーがあったので、山崎製パンと似ている商品を抜き出したのが下の表である。
山崎製パンもTベーカリー(仮名)も、熱量に関してはあまり差がない。山崎製パンのメロンパンの塩分(食塩相当量)がやや多いことと、Tベーカリーのマロンクリームケーキの脂質が非常に多く含まれているのが特徴的だ。
このベーカリーは、商品に原材料や添加物を表示しているのかどうか確認していないが、一般的なベーカリーでは、店頭で原材料や添加物を表示しているところは、ほとんどないだろう。ベーカリーでも、容器包装されたサンドイッチなどのように表示義務があるものも販売しているので、すべての商品に食品表示がされていないわけではない。
しかし、原材料や添加物、栄養成分がまったく表示されていないベーカリーのパンが、山崎製パンより安全で安心できるとは限らない。
日本人は表示されていないと意識しない。ショートニングやマーガリンと表示されていると、トランス脂肪酸が多く含まれているのではないかと疑い心配するが、何も表示されていないと疑うどころか心配もしない。それどころか、表示されていないもののほうが安全で安心な食品だと勘違いしている消費者もいる。
バラ売りの食品は、衛生面での不安もある。デパ地下やベーカリーの店員の中には、キャップのようなものでしっかり頭を覆うこともなく、ましてやマスクをしていない人もいる。ツバやフケなどは大丈夫なのだろうか。子どもが触っていないだろうか。
容器包装された山崎製パンが良いといっているわけではない、容器包装されていない商品も、食品表示がされていないと、山崎製パンより品質が良いと大きな声で言えないのだ。ベーカリーでも、仕入れた原材料の多くには、原材料や添加物は表示してあるはずだ。消費者に安心を与えるためにも、できるだけ食品表示をしてほしい。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)