お得意のマーケティング
いい商品さえできれば、広告をはじめとするマーケティングはサントリーのお家芸です。広告にはロック歌手の矢沢永吉を起用し、「最高金賞のビールで最高の週末を。」というテレビCMは多くの方の記憶に残っているのでないでしょうか。
矢沢永吉の起用については、ロックスターとして長年にわたり第一線で活躍し、華やかな魅力あふれるイメージが最適であるとの判断により決定されました。普段はステージなどオンのイメージの強い矢沢永吉が週末というオフを演じることで、プレモルを楽しむちょっと贅沢な週末を訴求しています。また、矢沢永吉というキャラクターの選択はもちろん“永ちゃん”という意味合いが通じる年代、30代後半から上の層を意識してのことです。この層が当初の主たる消費者であったことに加え、飲食店への営業においても同年齢層と重なる場合が多い店主や料理長からも「矢沢永吉のCMでしょ」と好意的に受け入れられています。
また、プレミアムカテゴリーは衝動買いが少ない代わりに、飲まれるようになれば定常化するチャンスがある商品であり、店頭フェイスを広げることが重視されました。そのために、小売店に対して、ヱビスなど他社商品を含む、プレミアム・ビール・コーナーの設置を提案し、その真ん中にはプレモルを大きく置いてもらうという営業が行われています。
大胆な投資:全社的覚悟
プレモルのマーケティングには、大きな資金が投入されています。担当スタッフは次のように語っています。
「ビール類の予算の大半はプレモルに、ダイナミックに投入しました。同質的な競争をしていては、絶対トップメーカーには勝てないという意識がありました。ヱビスビールが20年間でやったところを2~3年で達成するためには、大きなマーケティングコストも必然だったと思っています。ある意味では、オーナーシップの会社だからできた意思決定だともいえますが、その投入コストに対するリスクは全社員が背負うんだという自覚も生まれてきました。それだけの商品としてみんなが一緒にプレモルを育てようという意識を持てたのが、インナーの要素として大きいかもしれません」
プレモルの成功に関して、もちろん商品の味やインパクトのある広告などは消費者の購買行動に大きな影響を与えていることでしょう。しかしながら、これらは単に各部署や担当者のセンスが良かったというレベルではなく、強いリーダーシップに全社員が鼓舞され、組織的な強い力が創造された結果であると捉えるべきでしょう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)