メモリバブル後にTELがLamとの差を拡大
2019年にメモリ不況に突入したことから、絶縁膜エッチング装置市場が減少する。そのため、TEL、Lam、AMATの上位3社すべての出荷額が下がる。その後、不況が明けるとともに上位3社の出荷額は回復していく。
ところが、2019年以降のシェアの推移をみると、上位3社の明暗が分かれている。2019~2021年にかけて、1位のTELが39.7%から43.8%にシェアを拡大するのに対して、2位のLamのシェアは38.6%から29.9%に下がる。結果として、TELとLamのシェアの差は13.9%に拡大することになる。これは、Lamが独占していた3次元NANDのメモリホール加工用エッチャーについて、TELがシェアを侵食したためと推測している。
昨年、ドライエッチングの国際学会のドライプロセスシンポジウムで、韓国サムスン電子の発表者から、3次元NANDのメモリホール加工用に、TELの新型絶縁膜エッチャーをR&Dセンターに導入したと聞いた。もし、これが量産に使われるようになれば、さらにTELとLamの差はもっと開くかもしれない。
不気味なOthersの動向
3位のAMATのシェアは2019年以降、横ばいである。また、4位の日立ハイテクノロジーズのシェアは4~6%程度であまり変わらない。ところが、Othersは、2016~2021年にかけて、出荷額が0.35億ドルから5.5億ドルへ、出荷額シェアが1.1%から7.3%に急拡大すると予測されている。
Othersには、韓国サムスン電子の子会社のSEMESや中国AMECなどが含まれていると考えられる。各社の具体的な出荷額およびシェアは不明であるが、その存在感は無視できない規模になりつつある。そして、Othersのシェアは、この予測よりも大きくなるかもしれない。
というのは、日韓貿易戦争の勃発により、サムスン電子などは日本製の材料や装置を使わないと予測される。すると、サムスン電子などが、TELの代わりにSEMESを積極的に使う可能性がある。そうなると、SEMESのシェアが増大し、TELはシェアを下げることになるだろう。
また、米中ハイテク戦争の最中、米国は昨年、中国でDRAMを開発し製造しようとしていたJHICCをエンティティー・リスト(EL)に追加した。その結果、米国製のLamやAMATの製造装置が中国へ輸出できなくなった。今後は、JHICC以外の中国の半導体メーカーもELに追加される可能性がある。
そうなると、中国の半導体メーカーは、AMECのエッチャーを使わざるを得ない状態になる。すると必然的に、LamやAMATのシェアが下がり、AMECのシェアが増大することになる。
以上をまとめると、半導体製造装置のなかで最も市場規模の大きな絶縁膜エッチャーのシェア争いにおいては、技術の優劣だけでなく、米中ハイテク戦争や日韓貿易戦争などの政治的要因が大きく影響してくる事態となったといえよう。
今後、TELとLamのトップシェア争いに加えて、SEMESとAMECが含まれるOthersの挙動に注目していきたい。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)