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多くの電車運転士が遭遇…人身事故後に襲われる“壮絶な体験”

文=平沼健/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 9月から10月にかけて、東京都内の電車は多くのトラブルに見舞われた。筆者が利用する路線でも、台風15号、19号による影響で長時間の運休が余儀なくされたほか、人身事故が相次いだり、信号機故障でダイヤが乱れるといったトラブルがたびたび発生し、利用者がうんざりする姿をよく見かけた。

 だが、これらはある意味、仕方がないと割り切れる。どんなに鉄道会社が努力しても、自然には逆らえないし、人身事故を完全になくすことも難しい。その点、人的ミスは防がなければならないものといえる。2005年に発生したJR福知山線脱線事故を契機に、速度自動制御装置などの進歩・普及もあり、スピード超過などのトラブル報告は減ったが、いまだにオーバーランなどの細かいミスは散見される。

 降雪などで制動距離が想定よりも長くなるといった要因もあるが、人的ミスは運転経験が少ない“新人”運転手によることが多いという。もちろん、新人といっても入社直後の新社会人が運転しているわけではない。

「まずは駅などの業務を1~2年、それから車掌を2~3年経験し、やっと運転士になるための社内試験を受けられます。そこで合格したら、国家試験合格に向けた筆記試験対策(座学)と実技試験対策(操縦訓練)を受講。これがそれぞれ半年弱でしょうか。その後、国家試験に合格すると、晴れて動力車操縦者運転免許を取得できます」(都内の鉄道会社運転士)

 入社してから免許の取得までには、長い年月を要するというわけだ。しかし、免許を取得してもすぐに運転士として配属されるわけではなく、安心できないという。

「合格後には、線区の特徴などについて学ぶ期間があります。おおよそ数カ月ですが、明確に期間が定められているわけではありません。その間に適性がないとみなされると、運転士として乗務できなくなり、駅などに配属されることもあります」(同)

 一人前の運転士として乗務できるようになるまでの期間は鉄道会社によって異なり、十分な訓練を積んでいるとはいえ、停車位置をオーバーするといったミスは誰でも経験するようだ。もちろん、ベテランがミスすることもあるが、新人のうちはミスが起きやすいという。ちなみに、プロの運転士たちが乗客として電車に乗ると、事前のブレーキの掛け方などによってその電車を運転しているのが新人かどうかわかるという。

人身事故に直面した運転士の壮絶体験

 運転士になると、いつかは人身事故に遭遇することがあるだろう。前出の運転士も人身事故を経験しているという。

「いきなり人が飛び込んできたら、ブレーキをかけても間に合わないし、避けようがないんです。人を轢いたという認識はありましたが、呆然としてしまって事故の処理などを見ていても何も感じませんでした。その後は警察で事情聴取を受け、ひと通りのことが済んでから、少しずつ実感が湧いてきたという感じです。事故後は上司が数日の休みをくれましたが、そのとき初めて『人を殺してしまった』という感覚に襲われたんです」(同)

 人身事故が起きても、適切な運転をしていれば運転士が罰せられることはない。実際に、鉄道事故の9割以上は、運転士に過失はないといわれている。ただ、人が死んでしまったことは事実なわけで、事故に直面した運転士は、そのことに悩まされることも多いという。

 また別の運転士も、複数の人身事故に遭遇した経験を次のように語る。

「最初はショックを受けますが、2回目以降になると徐々に慣れてしまう自分がいました。悲しい、怖いという感情よりも、『面倒なことをしやがって』という怒りが湧き上がってくるんですよね。でもあとから、そんな自分が嫌になることもあります」

 この頃に乗務していたのが自殺者が多いといわれる路線だったこともあって、同僚のほとんどが事故を経験していたという。この運転士は、現在は地方の路線で運転しており、人身事故はほとんど起こらないが、動物が飛び込んでくることがあるという。

「特に、ハトなどの鳥がぶつかってくるという話はよく聞きます。さらに田舎のほうへ行くと、牛やシカの衝突もあるようです」(同)

 小動物であればぶつかっても運転に支障がないようにも思えるが、窓に当たれば割れたりして運転を続けることができなくなるケースもある。動物は予期しない場所で突然、飛び込んでくるので、避けることは非常に困難だという。

 ちなみに、鉄道業界には轢死体を指す「マグロ」という隠語があったが、現在はほとんど使われることがない。鉄道員たちは一般にもわかりやすい言葉を使うようになってきていて、若手社員はこうした隠語を知らないこともあるのだとか。

「隠語といえば、電車が急に止まったときに『線路に人が立ち入った』というアナウンスが流れることがありますよね。これは、『痴漢が線路を走って逃げた』場合もあります。仮に痴漢行為があったとしても、痴漢かどうかは警察が判断することなので、その時点では断定せず、『痴漢』という表現は使わずにアナウンスします。『迷惑行為』や『車内トラブル』と表現する場合もあります」(同)

 電車の正常な運行を妨げる人身事故や痴漢行為は、鉄道会社やその社員たちにとっても大きな負担となる。各鉄道会社はホームドア、監視カメラ、自動制御装置等、事件・事故防止のための設備を導入しているが、完全になくすことは難しいのかもしれない。少しでも事件・事故が減ることを願ってやまない。
(文=平沼健/ジャーナリスト)

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