鉄道を利用するときに支払う運賃や料金に関して定められた制度類は、一つひとつがなんらかの根拠があって設定されたものだ。大多数は適正であると筆者は考えるが、JR旅客会社の旅客営業規則には今の時代に即していないとか、妥当性がなくて廃止したほうがよいと感じられる内容もいくつか存在する。前回に引き続き、本稿では乗車券などの乗車変更の扱いについて触れてみたい。
JR旅客会社の旅客営業規則の第248条を見ると、乗車券、特急券、グリーン券などの特別車両券、寝台券などは旅行開始前または使用開始前であれば、1回に限って手数料なしで同種類のきっぷに変更できる。変更後のきっぷに差額が生じた場合、変更前のきっぷのほうが値段が高ければ払い戻し、そうでなければ追加分を支払う。
この規則には問題点が2つある。まずは同種類のきっぷの範囲だ。たとえば、第248条第1項の第1号から第4号までを見ると、普通乗車券同士、特急券同士など、常識的に考えて理解できる組み合わせが並べられている。そのようななか、第4号は極めてわかりづらいうえに不思議だ。原文を引用しよう。
「(4)指定券(急行・指定席特別車両券(A)、急行・寝台券、急行・コンパートメント券及び急行・座席指定券を含む。以下この条において同じ。)相互間の変更」
要するに、JR旅客会社にさまざまな種類の指定席が存在するうち、無料で変更可能な組み合わせは事実上すべてであると言っているのである。不可能なのは指定席から自由席への変更だけといってよい。この場合も変えようと希望した列車の指定席が満席で、その列車に自由席が連結されていれば特例として認められる。
よく見られるケースを挙げると、たとえば新幹線の列車や特急列車のグリーン車に乗ることになっていて、その後普通車指定席に乗ろうとしても、特急券と指定席グリーン券とから普通車の指定席特急券へと手数料なしで変更可能だ。しかしながら、特急券と指定席グリーン券から普通車の指定席特急券をJR東日本の駅の窓口で依頼すると手数料を取られることが多い。具体的には特急券同士は手数料なしで変更してもらえるが、グリーン券は払い戻すものとして扱われるのだ。筆者も3回経験しており、しかもすべて異なる駅の窓口であったから、同社の方針であるのかもしれない。本稿執筆時には間に合わなかったが、次回までにJR東日本の意見を聞いてみたい。
実を言うと、このようなケースにおいては手数料を徴収するというJR東日本の取り扱いのほうが正しいと筆者は考える。旅客営業規則にはちょっとした欠陥があり、特急券とグリーン券とのうち、指定席券に相当する分をどちらに入れるかが紛らわしいから判断が分かれるのだ。
一般的に言って、普通車の指定席に乗るときは指定席特急券であるからグリーン車に乗るときは指定席特急券+グリーン券であると考えたくなる。この場合、乗車変更の際に同種類のきっぷとなるのは指定席特急券だけ、グリーン券は宙に浮くから不要となれば払い戻しというのは合点がいく。
だが、先ほども触れたように実は特急券+指定席グリーン券となっていて、指定席券分はグリーン券に含まれているのだ。こうなると、指定席を変えるという扱いに関しては、なるほど指定席特急券と指定席グリーン券とを同種類のきっぷとせざるを得ない。妙ではあるが国鉄から引き継がれた規則なのでJR旅客会社各社は従っているのであろう。
すべてのきっぷに変えられる
乗車変更にまつわるもうひとつの問題は、乗車券であろうが特急券などであろうが、その時点でJR旅客会社全社で発売されているすべてのきっぷに変えられるという点だ。たとえば東京駅から博多駅までの間の「のぞみ」を利用するための普通乗車券と指定席特急券とを用意していた場合、乗車変更とは区間はそのままで日時を変えるというのが一般的な認識であろう。
しかし、JR旅客会社のいう乗車変更とは、東京駅から博多駅までの乗車券を東京駅から札幌駅までのものに変えてもよいし、「のぞみ」の指定席特急券を新千歳空港駅から札幌駅までの快速「エアポート」の指定席券に変更することすら認めているのだ。
これはいくらなんでも自由に変えられすぎると筆者は考える。航空券の場合、手数料なしで変更可能な搭乗券であってもその範囲は限られていて、区間は変えられないとあった。本来であればJR旅客会社も航空会社にならいたいのであろうが、窓口業務が複雑になって大変だからという理由で採用していないのであろう。いまはIT化の時代で、駅の窓口でもマルス(Multi Access seat Reservation System)というJR旅客会社の座席予約・販売システムの端末が導入されているから、この程度の規則変更は別に難しくない。
長い目で見れば利用客が損
以上の筆者の意見はJR旅客会社にとって得なものばかりであるので、何か裏があるのではと疑われる方も多いであろう。しかしながら、筆者はこの件でもほかの件でも、JR旅客会社から特段の便宜を受けてこのように発言しているのではない。利用者には一見得な規則でも長い目で見れば結局は損をする可能性が濃厚であるからだ。
JR北海道やJR四国は深刻な経営不振に陥り、安全を維持するうえで必要な投資もできないとして、国はJR北海道には600億円、JR四国には256億円の合わせて856億円の助成金を投入した。助成金は国庫からではなく、国が出資した独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構から支払われているものの、実質的には国民が納めた税金が原資であると考えられる。もちろん、両社への助成金は不可欠かつ緊急の措置であったからやむを得ないかもしれないが、黒字の航空会社ですら採用していないほど鉄道会社にとって不利な旅客営業規則に手を付けていないのでは理解が得られない。
一方で、経営状況が良好なJR東日本、JR東海、JR西日本にはさらに利益を出してもらう必要がある。多額の法人税などを納めることで、国鉄の残した長期債務の償還を少しでも早めなければならないからだ。
今年2月8日、国土交通省は国鉄の長期債務の残高を発表した。2017年度末の2018年3月31日現在で17兆2187億円で、同年度中に4383億円を返したという。このペースでいくと完済は2017年度末から39年後の2057年で、気が遠くなるほど先だ。
国鉄の長期債務は国の一般会計、つまり、国民の納めた税金からまかなわれている。ならば利益を挙げているJR旅客会社にはさらにがんばってもらわなければならない。その際には公平な視点で見て、利潤の追求の妨げとなる旅客営業規則は見直す必要がある。そうでなければ、増税が待っているかもしれないからだ。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)