自動車の燃費は年々向上し、近年登場したエコカーであれば、市街地を普通に運転しても1リットルの燃料で20キロメートル程度走行することも難しくはない。国土交通省の統計を見ると、営業用車のうちバスの燃費は3.2キロメートルであったという。今回は鉄道の燃費をみていこう。
燃費を紹介するに当たり、自動車と同じようにガソリンなり軽油なりの燃料1リットル当たりの走行距離を出しておきたいところだが、今日の車両の大多数は電気で走行しており、比較できない。そこで、軽油などの燃料でどのくらいの電力が発電できるかを探ることとした。資源エネルギー庁の統計によると、2015年度に軽油などの燃料を134億519万リットル使用して575億6770万キロワット時の電力が発電されたという。したがって、1キロワット時の電力を発電するために0.233リットルの燃料を消費したと考えられる。
全国の鉄道で2015年度に消費された車両用の電力は175億5094万キロワット時あまりであった。この数値を燃料に換算すると40億8937万キロリットル。さらには、ディーゼルカーなど、もともと軽油で走行する車両が消費した燃料は1億9817万キロリットルで、合わせて42億8753万キロリットルとなる。
燃費を求める際に用いる車両の走行距離は先ほどとは異なり、自ら保有する車両が自らの路線を走った距離に、他の事業者の車両が自らの路線を走った距離を加えたもので、全国の鉄道事業者の合計は98億9517万キロメートルであった。この数値をいま紹介した42億8753万キロリットルで除して燃費を求めると、2.3キロメートルとなる。
この燃費がよいか悪いかと尋ねられたら、筆者は「非常によい」と答えたい。なぜなら、鉄道の車両は1両に100人以上の人であるとか25トンの貨物を載せることができ、自動車と比べると格段の輸送力を備えているからだ。
それでは例によってJR、大手私鉄、地下鉄の別に燃費を見ていこう。
JR
JR7事業者の燃費は2.5キロメートルである。最もよい燃費はJR貨物の6.0キロメートル、いっぽうで1.6キロメートルのJR北海道はJR中、最も芳しくない結果に終わった。
JR貨物の燃費は大手私鉄、地下鉄を含めても最もよい。その理由は、動力発生装置付きの車両が機関車に集中しているという走行形態に基づく。なにしろ機関車1両で最大23両もの貨車を引っ張って走るのだから、同社が保有する車両全体で見ると燃費がよくなるのもうかがえる。ちなみに機関車だけの燃費は0.3キロメートルと途端に悪くなるのも致し方ない。
さて、JR7事業者中最も悪い結果となったJR北海道についてはいくつか補足しなければならない点がある。北海道は極めて寒いので、冬に車両の暖房用として大量の電力、燃料を消費するというのがひとつ。そして、もうひとつはやはり寒さが理由で、ディーゼルカーによっては長時間のアイドリングが必要となるケースが生じるからだ。
鉄道車両が搭載する大型のディーゼルエンジンは気温が下がると始動しづらくなる。氷点下20度にもなる北海道では、屋外に置かれたディーゼルカーのエンジンが最も気温の下がる早朝にすぐに動きだす保証はどこにもない。このため、JR北海道は朝早くから営業に使用されるディーゼルカーに対し、一晩中アイドリングを行ってすぐに走りだせるように万全を期している。
JR北海道によると、ディーゼルカーのエンジン1基を1時間アイドリングさせるだけで軽油を3.5リットル消費するという。省エネの観点からも、同社の費用節減の観点からもアイドリングは避けたいところだ。しかし、公共交通機関である以上、エンジンが始動しないために列車が運休することはあってはならないのでやむを得ない。
大手私鉄
大手私鉄15社の燃費は2.0キロメートルである。最もよい数値を記録したのは東武、京王、相鉄の3社でともに2.4キロメートルだ。京阪は1.6キロメートルと大手私鉄中で最も芳しくない結果となった。
率直に言うと、東武、京王、相鉄の3社と京阪との燃費の差についての理由を説明することは難しい。線路を見ると、平坦基調の3社に対して京阪は坂が多いとも考えられる。だが、京阪も京阪本線は比較的平坦であり、坂ばかりといってよいのは京津線くらいといえる。
地下鉄
地下鉄10事業者の燃費は1.9キロメートルであった。この数値は健闘していると言える。なぜなら地下鉄は大多数の路線で急坂が続いているからだ。地下鉄は駅と駅との間の距離が軒並み1キロメートル以内と短いので、電力を消費して加速する時間も短くて済むし、速度も遅いので案外燃費は悪くならない。
なお、地下鉄で最もよい燃費は京都市の2.5キロメートル、最も芳しくない燃費は札幌市の1.1キロメートルであった。京都市の燃費が良好であった理由はよくわからない。しかし、札幌市のケースについては容易に説明できる。
というのも、JR、大手私鉄、地下鉄のなかで唯一札幌市はすべての車両がゴムタイヤで走行しているからだ。鉄の車輪が鉄のレールの上を走る一般的な鉄道の車両は車輪とレールとの間に生じる摩擦が極めて少ない。時速20キロメートルで平坦な線路を走ったとき、車両1トン当たりの走行抵抗は2キログラムほどだ。いっぽうでゴムタイヤとコンクリートの線路との間の摩擦は大きく、同様の条件で車両1トン当たりの走行抵抗は10キログラムにも達してしまう。
これだけ不利な条件ながら、札幌市の地下鉄の車両がゴムタイヤで走行しているのは、騒音を減らすためだ。札幌市の地下鉄は郊外の地上区間が結構あり、周囲の環境を考えてゴムタイヤの車両を採用したという。
なお、理論上では走行抵抗に5倍もの開きがありながら、燃費は地下鉄の平均値の2倍程度の悪化に収まっている。先に挙げたとおり、駅と駅との間の距離が短いという地下鉄の特質が功を奏したからだ。加えて、ゴムタイヤが装着されるホイール部分をアルミホイールとして軽量化を図るなど、不利な条件のなかで札幌市は省エネを熱心に推し進めている。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)