全国には合わせて6万4790両の鉄道車両が在籍している(2015年3月31日現在。出典は国土交通省「平成26年度 鉄道統計年報」)。鉄道会社の形態別に見ると、JR各社は3万6400両と全体の56.2パーセントを占め、大手私鉄が1万7286両で26.7パーセント、中小私鉄が5923両で9.1パーセント、公営鉄道が5181両で8.0パーセントと続く。用途別では旅客用が5万3050両で81.9パーセントと多数を占め、貨物用は1万587両で16.3パーセント、試験や検査、除雪といった特殊用は136両で0.2パーセントとなる。
車両の種類のなかで最も多いのは電車だ。動力を生み出す装置に電動機を使用して旅客や貨物を運ぶ電車は4万9631両と、全体の4分の3あまりに相当する76.6パーセントを占める。新幹線で旅客を乗せる車両はすべて電車であるし、大都市の通勤路線で用いられている車両もまず間違いなく電車であるといってよい。
電車に次いで多い車種は、動力をもたずに機関車にけん引される貨物用の車両を指す貨車で1万411両、16.1パーセントである。以下、動力や駆動用の電力をディーゼル機関によって生み出して旅客や貨物を運ぶディーゼルカーが2726両で4.2パーセント、動力を生み出す装置を搭載して他の車両をけん引する機関車が1017両で1.6パーセント、動力を持たずに機関車にけん引される旅客用の車両を指す客車が525両で0.8パーセント、特殊車やその他の車両が471両で0.7パーセントと続く。
車両のお値段
ところで、鉄道車両は年間に何両くらいつくられるのだろうか。15年度には1737両が製造された。うち1555両が国内の鉄道会社向け、残る182両が輸出となる(出典は国土交通省「鉄道車両等生産動態統計調査」)。
気になる鉄道車両の輸出先は、統計を作成した国土交通省に問い合わせたところ、特に取りまとめていないという。財務省の貿易統計では年度ではなく15年暦年の輸出実績がまとめられており、鉄道車両は中古を含めて691両輸出されたとある。1両当たりの輸出価格がFOB(本船渡し価格)で1000万円未満の鉄道車両はさすがに新車ではないであろうと推察すると、残りは199両であった。/p>
これら199両の輸出先を多い順に挙げると、台湾が44両、英国が39両、ベネズエラが32両、台湾が29両、タイが15両、アルゼンチンが12両、アメリカが7両、シンガポール、中国ともに6両、インドネシア、香港ともに4両、ブラジルが1両となる。いま挙げた車両分の輸出価格の総額は533億7456万円であった。したがって、1両当たりの輸出価格は2億6821万円となる。この輸出価格はFOBであるから船に積み込むまでの諸費用を含む。純粋に車両1両当たりの価格が気になるところだ。
前出「鉄道車両等生産動態統計調査」によると、15年度に製造された1737両の鉄道車両の金額は合わせて1815億5594万4000円であったという。したがって1両当たりでは1億452万円ほどとなる。案外高いと感じた方も多いに違いない。
車両の種類別に価格を挙げてみよう。1両当たりの価格が最も高額な車種は機関車で2億8955万円である。機関車には電気、ディーゼルと動力を生み出す装置が電動機かディーゼル機関かで2種類があり、1両当たりの価格は電気機関車が3億8354万円、ディーゼル機関車が1億5796万円と電気機関車のほうが高い。なかでも外部から直流電力、交流電力どちらの電力の供給を受けても運転可能な交直流機関車の価格が高く、1両当たり5億5064万円であった。
機関車の次に高額であったのはディーゼルカーだ。1両当たり1億6543万円というのは、車種としては新幹線の車両の1億5784万円をも上回っている。近年国内向けに製造されるディーゼルカーはディーゼル機関を発電に用い、大容量の蓄電池に充電して電動機で走行するハイブリッド車が多くなった。ディーゼル機関をそのまま走行用とするタイプと比べて構造が複雑なため、高額となったのであろう。
続いて金額が高かったのは新幹線用の電車で、1両当たり1億5784万円であった。1両当たりの価格を細かく見ると、電動機付きの電動車が1億5518万円、運転室付きの制御車が1億5337万円と似通った金額のなか、電動機も運転室も備えていない付随車が2億3865万円と大きく上回る。15年度に製造された新幹線用の電車の付随車はすべてグリーン車であった。グリーン車は普通車と比べると豪華な内装をもつうえ、サスペンションもより揺れの少ないものと差別化が図られている。こうした装備の差により、電動機や運転室を備えていないにもかかわらず高価となったようだ。/p>
JRの在来線や私鉄など、新幹線用を除く電車は1両当たり1億222万円であった。こちらも1両当たりで電動車が1億175万円、制御車が9548万円であったのに対し、グリーン車が多い付随車が1億899万円であった点が特筆される。
残る客車、貨車のうち、1両当たりの金額は客車が5632万円、貨車が2387万円と、さすがに動力を生み出す装置を搭載していないだけに比較的安い。貨車のうち、1両当たりの金額はコンテナを搭載するコンテナ車が2294万円、石油などを運ぶタンクを備えたタンク車が2506万円と、容器であるタンクの分だけ後者のほうが高くなったといってよいだろう。
車両メーカー
今日、国内で鉄道車両を製造している鉄道車両メーカーは以下の9社である(50音順)。
・アルナ車両(大阪府摂津市)
・川崎重工業(兵庫県神戸市)
・近畿車輛(大阪府東大阪市)
・総合車両製作所(神奈川県横浜市、新潟県新潟市)
・東芝インフラシステムズ(東京都府中市)
・新潟トランシス(新潟県北蒲原郡聖籠町)
・日本車輌製造(愛知県豊川市)
・日立製作所(山口県下松市)
・三菱重工業(広島県三原市)
※カッコ内は主要な製造拠点
以上各社のうち、アルナ車両は路面電車を、東芝インフラシステムズは電気機関車を、新潟トランシスはディーゼルカーや路面電車を、三菱重工業は超電導リニアの試作車両、モノレールや新交通システム向けの車両、路面電車をそれぞれ専門に製造しているといってよい。残る5社は機関車から始まって新幹線用を含む電車、ディーゼルカー、客車、貨車と、車種を問わず幅広く製造している。
鉄道車両メーカーには鉄道会社と資本関係を持つところが多い。アルナ車両は阪急阪神ホールディングスの子会社であり、近畿車輛の主要株主には近畿日本鉄道やJR西日本が名を連ね、総合車両製作所はJR東日本、日本車輌製造はJR東海のそれぞれ子会社だ。JR東日本とJR東海との関係はあまりよいとはいえず、この点が傘下の鉄道車両メーカーの動向にも反映されている。両社ともJR東日本またはJR東海の子会社となってからというもの、親会社と仲の悪い会社の車両を製造した実績はない。
ご存じの通り、川崎重工業、東芝インフラシステムズ、日立製作所、三菱重工業の各社はいずれも他に主力製品をもつ。各社ともつい最近までは鉄道車両を製造していることをあまり一般に知らせていなかったが、近年は逆に積極的にアピールするようになった。それだけ人々に鉄道が親しまれているのであろう。
メーカー別シェア
鉄道車両メーカー各社を紹介したところで気になるのはシェアであろう。国内で最も鉄道車両を製造しているのはどこかを国土交通省に問い合わせたところ、数値としてはもちろん把握しているものの、統計法上、個々の法人の情報を明らかにすることはできないという返事であった。それではと、業界団体である日本鉄道車輌工業会に問い合わせたところ、会員には知らせているが、一般には公開していないという。
ドイツにあるSCI Verkehrという交通機関に関するコンサルタント会社は世界の鉄道車両メーカートップ10を公表している。15年に製造された車両の金額をユーロに換算して比較したもので、一般に知ることができるのは数値もあいまいな棒グラフにすぎない。それでもおおまかな動向はつかむことができ、しかも日本の鉄道車両メーカーも名を連ねている。/p>
同社の「2016 WORLDWIDE ROLLING STOCK MANUFACTURERS」の6ページから引用させていただこう。15年に世界で最も鉄道車両の製造額が多かったのは中国の中国中車(CRRC:China Railway Rolling Stock Corporation)だ。金額はざっと180億ユーロ(約2兆3800億円)であり、2位以下に大きく差をつけている。
2位は約50億ユーロ(約6600億円)と見込まれるボンバルディアトランスポーテーション。カナダに本社があり、ドイツに鉄道車両の製造拠点をもつ。3位はアメリカのトリニティレイルで約40億ユーロ(約5300億円)、4位はフランスのアルストムトランスポートで約30億ユーロ(約4000億円)、5位はアメリカのゼネラルエレクトリックで約25億ユーロ(約3300億円)、6位はドイツのシーメンスモビリティーで約20億ユーロ(約2600億円)となる。いずれも製造額は筆者が棒グラフから読み取った推計値だ。
7位から10位までの間の各社の製造額はおよそ20億ユーロから10億ユーロ(約1300億円)の間に固まっており、細かい数値はよくわからないので順位だけを紹介しよう。まず7位はスイスのスタッドラー、そして8位が日立製作所、9位がアメリカのグリーンブライアー、10位が韓国の現代ロテムと続く。
以上から、15年に関して言えば国内の鉄道車両メーカーのなかで製造額という比較基準でいえば、シェア1位を占めていたのは日立製作所である。ちなみに、SCI Verkehrが公表するランキングは上位はともかくとして、5位以下は年ごとの変動が大きい。たとえば13年のトップ10に日本の鉄道車両メーカーの名は1社もなく、11年は唯一の日本勢として10位に川崎重工業が名を連ねていた。
さて、ここまでお読みになって、いま乗っている鉄道車両を製造したメーカーがどこかが気になった方も多いであろう。鉄道車両メーカー名を知ることは案外たやすく、たいていは車端部の壁の上部に鉄道車両メーカー名を記したプレートが取り付けられており、併せて製造年も記されている。
鉄道車両は長く使われるので、いま挙げた鉄道車両メーカー以外の名を見る機会もあるかもしれない。なかでも多いのは東急車輛製造、新津車両製作所で、どちらもいまの総合車両製作所だ。それから新潟鐵工所、富士重工業も比較的よくあり、これらは現在の新潟トランシスである。古い車両となると帝国車輌工業、汽車製造会社、川崎車輌といった名も見かけるかもしれない。帝国車輌工業はいまの総合車両製作所であり、汽車製造会社、川崎車輌はどちらもいまの川崎重工業だ。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)