富山市は公共交通を軸としたコンパクトな街づくりを進めている。同市は標高3000メートル級の立山連峰と新鮮な魚介類を育む富山湾に囲まれた、人口42万人の自然豊かな地方都市だ。
6月下旬、仕事で1年ぶりにこの地を訪れた。朝9時過ぎに乗った羽田発の飛行機は、ビジネスパーソンと観光客らで満席。約1時間のフライトで神通川の河川敷にある富山空港に到着した。ここから富山駅まではバスで25分。空港からのバス便は本数こそ少ないが、アクセスはいい。
梅雨入り直前で青空が広がっている。コンパクトシティづくりを進めている富山市では、市街地にはセントラム、郊外に向かう路線にはポートラムというLRT(次世代型路面電車)が走っている。旧JR富山港線を引き継いだ第3セクター、富山ライトレールのポートラムに乗って、明治時代の廻船問屋街が残る岩瀬の街並みを見に行くことにした。
始発駅(電停)は富山駅の北口にある「富山駅北」。終点の「岩瀬浜」まで全長7.6キロのミニ路線で、電停は全部で13ある。車両はスノーホワイトをベースに全部で7種類のカラーがある。ブルーのシートが並ぶ車内にはアテンダントがいて、車内アナウンスや高齢者のサポートなどを行っている。乗客は地元の人、観光客を合わせ定員の7割ほど。沿線には手入れをされたアジサイが咲き誇り、車窓の光景に彩を添えていた。進行方向右手には残雪の立山連峰を眺めることもできた。市街地からほど近いのに、こんな景色が楽しめるのは、山が近い富山県ならではだ。
路面電車とはいえ、軌道部分は一部(1.1キロ)で、残りは鉄道線路。各電停に「鉄道むすめ」という萌えキャラ「岩瀬ゆうこ」のポスターが貼られている。オタクにはたまらない趣向なのだろう。20分ほどで終点から2駅手前の「東岩瀬」に到着、ここで下車して廻船問屋街の散策へ。歴史が息づく情緒のある街並みだ。片道200円の均一運賃で最新型LRTの乗り心地とローカル線の風情を堪能できるのだから、得をした気分になる。
旧JR時代に比べサービスは格段に向上、経営も黒字化
富山ライトレールはJR西日本富山港線を引き継ぎ、公設民営方式で58億円の建設費をかけて2006年に開業した。それまでの富山港線は、朝のラッシュ時でも運行は30分間隔(日中は1時間に1本)というさびれたローカル線で、利用者からすればなんとも不便な鉄道だった。そこで開業にあたりドラスチックな改革を断行した。新型車両(全低床車両)の導入、運行間隔の改善(ラッシュ時は10分、日中は15分)、終電の大幅繰り下げ(21時台から23時台へ)、駅数(電停数)の増加(9→13)、統一デザインの採用、ICカードの導入、住宅地と主要駅を結ぶフィーダーバス(降車したホームでバスに乗り換えできる)の運行なども行い、利用者の利便性の向上を図った。