昨年7〜9月に放送されたテレビドラマ『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)では、殺人事件の被害者家族と加害者家族の男女が恋に落ち、両家族が関係を築くことは可能かというテーマを扱い、話題となったが、加害者家族の置かれる現実とは、一体どのようなものなのか?
今回、『加害者家族』(幻冬舎新書)の著者で、NHK報道部ディレクターでもある鈴木伸元氏に、
「加害者家族となり社会から批判され、日常生活を送れなくなる現実」
「離婚や退職、自殺など、広く親戚の人生までも狂わせてしまう実態」
「ネットや手紙などで執拗に続けられる脅迫・嫌がらせ」
「生活地域や学校、職場などで直面する冷たい現実」
「加害者家族支援活動の広がりと現在」
などについて聞いた。
–これまで、被害者家族の実態については、メディアなどを通じて数多く報じられてきましたが、鈴木さんが加害者家族の実態について取材しようと思ったきっかけはなんでしょうか?
鈴木伸元氏(以下、鈴木) 1988年に起きた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の犯人・宮崎勤の父親と事件前から交流があり、当時東京新聞記者だった坂本丁治さんが書いた『単独会見記 針のムシロに坐る父親』(月刊「文藝春秋」所収)を読んで、事件が起きるとそこには被害者と被害者家族、加害者だけでなく、加害者家族もいるということを初めて意識しました。この事件を例にとると、犯人の父親の元には、全国から段ボール1箱分にもなる非難の手紙が届き、自宅へ引きこもり生活を余儀なくされ、自殺に至りました。宮崎勤の姉妹である父親の長女は、勤め先を退職に追いやられ、婚約も破棄になり、次女も看護学校を退学しています。また、父親の兄弟2人も、当時役員をしていた会社を辞任することになったばかりか、宮崎の従兄弟2人まで勤め先をやめる事態にまで発展しました。そこで、加害者家族の実態をより広く取材しようと考えました。
当初はどこから取材を始めたらいいのかわかりませんでした。そうした中、たまたま仙台の市民グループが加害者家族支援活動のためにワールドオープンハートという団体を立ち上げたことを知り(現在は、特定非営利活動法人(NPO)として活動)、そこを切り口に取材をしてみようと思ったわけです。
–本書の中では、普通の家族がある日突然“加害者の家族”になるという現実が書かれていますね。
鈴木 30代後半の女性・Aさん(仮名)は、ある日突然夫が殺人容疑で逮捕されます。その日から自宅周辺にはマスコミが押し寄せ、近隣住宅への取材もエスカレートしていき、Aさんは息子と親友宅へ身を寄せます。ある日こっそりと自宅へ忘れ物を取りに変えると、近所の住人から「来るなら日中は避けてくれ。家や(息子の)学校にまでマスコミの取材が来て迷惑している」と言われました。Aさんの携帯電話には「人殺し!」という脅迫電話がかかってくるようになり、自宅の壁には「殺人者の家」と落書きされ、学校からも転校を勧められ、テレビでも連日報じられるため息子にテレビも見せられず、『家族を抹殺する』などのインターネット上の書き込みにも怯える毎日でした。その後、名前を変えて息子と他の地域で生活を続けながらも、常に身元がバレることを恐れていました。ちなみに、身を寄せた親友は、Aさんのことが原因で夫と険悪になり、うつになるばかりか、その後離婚に至っています。
–加害者家族にとっても、かなり厳しい現実があるのですね。
誰も自分の家族がまさか罪を犯すとは思っていないでしょう。だから、何か予兆やサインがあっても、後で振り返ったときに、「あの時のあれがサインだったのか」と気づくことはあっても、事件が起きるまではそれがサインだとは思わずに生活していることが多いと思います。
そして、事件が起きて“加害者の家族”という烙印を押されたとたん、近所の目は冷たくなる。学校でもそういう目で見られて、子供はいじめられ、先生にも煙たがられる。それに、事件に関して近所の人もいろいろと取材されますから。面倒くさく思う人もいると思います。