その結果、旧JR富山港線時代(05年10月)の利用者数(平日2266人、休日1045人)が、開業後(06年10月)には平日で4988人、休日は5576人と劇的に増加したのである。利便性の大幅向上によって、従来のJR客に加え、バス、マイカーなどからの転向組が増えた。
1日当たりの利用者数は06年度の5772人から15年度の5616人まで、10年間ほぼ横ばい状況が続き、経営的にも安定している。富山ライトレールの15年度決算を見ると、北陸新幹線の開業効果もあり、年間輸送人員が205万5616人と初めて200万人を突破した。旅客運賃収入も観光客増加による現金利用が好調だったことから、2億5726万円と前年度比6.8%増となった。その結果、税引き後損益(当期純利益)は2146万円を計上。開業以来10年間連続黒字を確保した。自治体からの補助金があるとはいえ、安定的な黒字経営を維持しているのだから、LRT化の成功例といわれるのは当然だろう。
富山駅の南北分断解消で利便性はさらに良くなる
だが、課題もある。北陸新幹線が開業した14年度から翌15年度にかけて、セントラムなど市内軌道線の利用者数が1万2179人から1万3577人へと10%以上増加したのに対し、富山ライトレール(ポートラム)は5276人から5616人へと6%の増加にとどまった。
セントラムの乗り場は新幹線から降りた富山駅ビルの高架下にあるのですぐにわかる。繁華街の総曲輪や市内のホテルなどに向かうにしても、簡単に乗ることができる。一方、初めて富山を訪れた人にはポートラムの乗り場がはっきりしない。駅の南北が在来線で分断されているため、いったん南口側に出て地下道を通って北口側に向かわなければならないからだ。
当然、ポートラムとセントラムの相互乗り入れもない。このため富山を訪れた観光客の多くは人気施設「TOYAMAキラリ」や繁華街などがある富山駅の南側に集中する傾向がある。富山駅からわずか20分ほどの距離に明治の廻船問屋街というすばらしい街並みがあるのに、これではもったいない。
南北分断が解消され、相互乗り入れが可能になれば、富山ライトレールの利用者はさらに増え、沿線の活性化にもつながるだろう。南北接続事業は19年度にも完了の予定で、市内軌道線とポートラムが接続されることになるという。
富山市という自然環境豊かな地方都市で進められている、エコな公共交通を軸にしたコンパクトシティ構想がどんな広がりを見せるのか。これによって、地方活性化の新たなモデルが浮かび上がるかもしれない。
(文=山田稔/ジャーナリスト)