何両も連結されて編成を組んでいる電車は、一見同じに思えても中身は少しずつ異なる。電車のうち、モーターと運転室付きのものを制御電動車、モーター付きで運転室のないものを電動車、運転室付きでモーターのないものを制御車、モーターも運転室もないものを付随車という。
大都市圏の鉄道を代表する大手私鉄16社で旅客営業に用いられている電車の総数は、2015年3月31日現在で1万7128両で、これらのうち最も多いのは電動車(7395両)だ。以下、制御車が3868両、付随車が3431両と続く。制御電動車は2425両で全体の14.7パーセントと最も少ない。
ただし、関東の9社と中部・関西・九州の7社とでは傾向が異なる。制御電動車の両数は関東では1万787両中782両の7.2パーセントと少数派であるいっぽう、中部・関西・九州では6431両中1742両と27.1パーセントを占め、電動車の1913両の次で制御車の1511両より多い。
今日の鉄道では、制御電動車は不利な状況に置かれている。運転室にモーターとさまざまな機器を積むために重量制限を超えそうになるし、機器を搭載するスペースも不足しがちだ。加速の際は車輪が空回りしやすく、ブレーキの際はスリップしやすい。近年の電車は停止寸前までモーターを発電機として働かせた抵抗力でブレーキ力を得ており、その電力を架線に戻す電力回生ブレーキが主流となっている。ブレーキの利きが悪いからと制御電動車の電力回生ブレーキを作動させないと、最悪の場合、編成全体で必要とするブレーキ力が足りなくなる可能性も生じる。
そのようななか、南海電気鉄道(以下、南海電鉄)は所有する電車全体に対する制御電動車の割合が大手私鉄中最も高い。698両の電車中、262両と実に37.5パーセントを占め、運転室付きの電車に対する制御電動車の割合は67.7%に達する。同社によれば理由は2つあるという。2両編成や4両編成といった具合に、他社と比べて電車の両数が少ない編成が多いので、制御電動車を多数連結する必要が生じるからという理由が一つ。もう一つは、制御電動車は制御車と比べて重いため、線路上で自動車などに衝突した場合に脱線しにくいといった利点があると考えているからだという。
異質な京浜急行電鉄
全般的に制御電動車の少ない関東の大手私鉄にあって、まったく異なった傾向を示しているのは京浜急行電鉄のだ。所有する790両の電車のうち、南海電鉄に次ぐ32.4パーセントの256両が制御電動車である点はもちろん、さらに特筆されるのは制御車が1両も在籍していないという点である。同社の場合、東京都交通局(以下、都営地下鉄)の浅草線と相互直通運転を実施しており、都営地下鉄をはじめ、浅草線を介して京成電鉄、北総鉄道、千葉ニュータウン鉄道、芝山鉄道の各社の電車も同社内に乗り入れていく。
そのようななか、これら他社からやって来る電車も運転室付きの電車はすべて制御電動車で、要するに同社の線路上には制御車は1両も存在しない。それどころか、かつて制御車を所有していた北総鉄道では、京浜急行電鉄への乗り入れに伴ってわざわざ制御電動車へと改造したほどである。
京急電鉄によると、他社から乗り入れる電車を含めて制御電動車でそろえた最大の理由は、最後部に連結する電車を重くしようと努めたからだ。制御電動車を最大限に活用して、レールに流した微弱な電流を確実にショートさせることで電車が線路のどの位置にいるかを検知するセンサーの信頼度は高まる。
おかげで、電車が待避線に進入したときには、隣の電車と接触しない程度に離れただけで後続の列車への信号を青に変えられるようになり、スピードアップや高い頻度での運転が実現した。きびきびと走る京急電鉄の電車のカギの一つは制御電動車にあるのだ。
制御電動車の割合と電力消費量
最後に、電車全体に占める制御電動車の割合が、電車が消費する電力とどのような関係があるのかを紹介しよう。2014年度における大手私鉄の旅客営業用のすべての電車が走行した総走行距離、電車走行1キロメートル当たりの電力消費量と電力費とを求めてみた。
線路の状況、電車のスピードなど各社で環境が異なるので参考値となるという前提で発表すると、大手私鉄の平均で2.15キロワット時であった電車走行1キロメートル当たりの電力消費量が最も多かったのは京阪電気鉄道(以下、京阪電鉄)(2.75キロワット時)で、最少は京王電鉄(1.80キロワット時)、大手私鉄の平均で39円であった電車走行1キロメートル当たりの電力費が最も多かったのは西武鉄道(45円)、最少は西日本鉄道(31円)である。
京阪電鉄は、短い両数での運転が多い路面電車を所有している点を考慮しても、制御電動車の割合が多い。電車全体に対する制御電動車の割合は29.0パーセント、運転室付きの電車に対する制御電動車の割合は79.8パーセントに達する。したがって、電車走行1キロメートル当たりの電力消費量が最も多いという結果に満足がいく。
京王電鉄は0.6パーセント、西武鉄道は4.2パーセントと両社の電車全体に対する制御電動車の割合は、大手私鉄の平均値を下回る。したがって、京王電鉄の結果は理解できるものの、西武鉄道は不可解だ。西日本鉄道が電車全体に占める制御電動車の割合は21.3パーセントと比較的高い。その割に電車走行1キロメートル当たりの電力費が最も少ないのは、東京電力、中部電力、関西電力に対して九州電力という、電力会社の違いによるものかもしれない。
制御電動車に関して特徴を持つ南海電鉄と京急電鉄との場合、電車走行1キロメートル当たりの電力消費量は前者が2.14キロワット時、後者が2.15キロワット時で大手私鉄の平均値とほぼ同じだ。同じく電車走行1キロメートル当たりの電力費は南海電鉄が35円、京急電鉄が42円と、後者は大手私鉄の平均値を上回っていて制御電動車が多いからとも考えられるものの、前者は平均値を下回っている。以上の結果を見ても、制御電動車と電力消費量、電力費との間にははっきりとした相関関係は見つからなかった。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)