「サッカー日本代表も、1998年に初出場したワールドカップでは1勝もできなかった。でも、失意のどん底から地道にがんばってきたから今のサッカー界の盛り上がりがあるわけですし、我々も長いスパンで見てバスケ界を盛り上げていきたいですね」
ラグビーワールドカップ(W杯)の日本代表の活躍について話を向けると、プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)のクラブ、川崎ブレイブサンダースの運営会社社長を務める元沢伸夫氏は悔しがるでもなく、そう答えた。今年9月に行われたバスケットボールのW杯に出場した日本代表チームは、21年ぶりの自力出場とNBA選手・八村塁などを擁したことで話題を集めたが、3連敗で1次リーグ敗退に終わっている。10月3日にBリーグの2019-20シーズンが開幕したが、試合結果がメディアなどで取り上げられることも少ない。
W杯で周囲の期待に応えることはできなかったバスケだが、元沢社長の言うように地道な努力が実りBリーグは着々とファン層を拡大している。それはリーグ全体の入場者数が2018‐19シーズンは3年連続増となる259万人を達成し、初のチャンピオンシップ全試合満員という数字を見てもわかる。
その上昇気流の中にあって特に注目すべきクラブが、昨シーズンに東芝から運営を事業承継されたディー・エヌ・エー(DeNA)が親会社となった川崎ブレイブサンダースだ。プロ野球に参入して次々と斬新な企画や新たな経営指針を野球界にもたらしたDeNAが、Bリーグに参入して目指すものとはなんなのか。DeNA川崎ブレイブサンダース代表取締役社長・元沢伸夫氏に話を聞いた。
バスケットは野球とサッカーに並ぶビッグスポーツになると確信
――まずは元沢社長の経歴と、川崎ブレイブサンダースの代表となった経緯を教えてください。
元沢伸夫氏(以下、元沢) 2006年にDeNAに入社して、ECサイトの立ち上げやゲームを中国、韓国に輸出する事業だったり、人事を担当していて、当初はいわゆる普通のIT企業の会社員でした。しかし、DeNA が11年12月に横浜ベイスターズの親会社になり、野球経験はありませんがスポーツ全般が好きだった私は、「ぜひベイスターズに出向させてほしい」と当初から上司にお願いしていて、14年シーズンからようやく事業本部長としてベイスターズの仕事にかかわらせてもらうようになりました。
――いきなりの事業本部長就任。それまでスポーツマーケティングの経験はあったのですか?
元沢 まったくないです。ド素人なのに、いきなりの重責を負いました(笑)。でも、なんとか責任者として2016年から球団の収益を黒字化できて、DeNAの新たなスポーツ事業を展開したいと考えるようになったんです。
――そこで目をつけたのがバスケだったと。それは元沢社長の意向ですか?
元沢 Bリーグ参入の意向は会社全体のものでしたが、その意思決定には私も大いにかかわっていて、会社の経営会議でバスケ参入のプレゼンをした最終メンバーでした。当時、バスケを事業として行うのはかなりチャレンジングという社内の認識だったのですが、チャレンジであるからこそ私がやりたいと立候補しまして「そんなに言うならやってみろ」と、18年1月からブレイブサンダースを承継するための会社をつくって、そこで代表を務めることになりました。今はブレイブサンダースの事業一本です。
――難しい挑戦になると承知の上で、なぜBリーグを選んだのですか?
元沢 ベイスターズでの成功例もあって、ありがたいことにいろんなプロリーグのクラブから「一緒にやりませんか」と声をかけてもらって、さまざまなスポーツの試合を観たのですが、バスケの持つポテンシャルはズバ抜けていると感じたからです。2時間弱の試合のなかで、ダンクや3ポイントシュート、高速ドリブルがあり、どんな試合展開でもシンプルにカッコよくて、見ていておもしろく、バスケ初心者でも一定の満足感が得られます。狭いコートに2メートル前後の10人の大男たちが縦横無尽にプレーする迫力もすごくて、これは野球やサッカーに並ぶビッグスポーツになるという確信が私の中でありました。
――川崎ブレイブサンダースを選んだ理由はなんですか?
元沢 我々もベイスターズを運営している関係で、できれば神奈川のチームを運営したかったというのがありますね。その点、東芝さんは同じ神奈川にクラブを保有していて、もともと知らない仲ではなかったですし、話を頂いた段階からトントン拍子に進んでいきました。当初のブレイブサンダースの印象は、いい選手も在籍していてチーム自体も強い。運営も、限られたリソースでファンを増やす最大限の努力をしていると強く感じましたし、このような経営方針のチームなら、スムーズに運営が移行できるなとも感じました。