楽天市場やYahoo!ショッピングなどインターネット通販を使っていると、よくポイント増額のキャンペーンの連絡が送られてくる。たとえば楽天の場合、プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスやJリーグのヴィッセル神戸が勝った翌日には「楽天市場で買い物をするとポイントが倍になる」というメールが送られてくる。そのメールのリンクをクリックすると、キャンペーンのエントリーページが開く。そして重要なのが、そのページでエントリーのボタンを押さないと、ポイントが倍になる権利は得られないという点だ。
理由はエントリーボタンを顧客に押してもらうことで、キャンペーンのメールを送ったうちの何人がそれに反応してくれたかを楽天側で測定するためだ。これは「キャンペーンマネジメント」と呼ばれ、「ポイント倍額」のようなキャンペーンを企画する側は、その勧誘のメールを送った中の何%がキャンペーンにエントリーしてくれて、さらに何%が買い物をしてくれたかをきちんと測定しているのだ。
さて、あるとき自分で疑問を感じたのだ。
「毎週やってくるこういったキャンペーンにただ反応している場合と、顧客の側できちんと戦略を練って対応している場合で、どれくらいお得さに違いが出るのだろうか?」
つまりネット通販の事業者側がやっているように、個人でも自分がどのようなキャンペーンにどう反応したかを測定したら、どんなことがわかるのか調べてみようと思ったのだ。
さっそくやってみた。
自己ルールを設定する
まず最初にやったことは、自分がこれまで無意識にネット通販を使っていたときのポイント還元率がどれくらいだったかを、振り返って計算することだった。楽天の場合、過去の購買履歴とポイント履歴を参照すると、自分がどれくらいの買い物をしてどれくらいのポイントを得ていたかが計算できる。ちょっと面倒な作業ではあるのだが、実は私のような経営コンサルタントにとっては手慣れた作業でもある。小一時間ほどデータをいじっていると、過去1年間の平均ポイント還元率がわかった。
私の場合、楽天で無意識に買い物をしてきたポイント還元率の実績は3.3%だった。基本的に楽天の会員は楽天で買い物をすると1%のポイントを還元してもらえる。楽天カードで決済すると+1%で計2%のポイント還元になる。難しいことを抜きにしていえば、キャンペーン抜きに普通に楽天市場で買い物をしていると、だいたい2%の還元率になるのである。
私の実績が3.3%だったということは、結構な頻度で楽天のキャンペーンメールにも反応してきた結果、2%よりは高い結果を残しているということだ。これが実は今から2年ほど前の出来事で、ここから私は自分自身でキャンペーンマネジメントを真剣に行うことにした。
何をしたのかというと、まず楽天で何かを購入する際に、できるだけ多くのキャンペーンにエントリーして、ただでもらえるポイントをどこまで最大化できるかを実験しようとしたのである。その際に以下の自己ルールを設定した。
(1)無駄な買い物はしない。ポイント還元率を高めようとしたらポイントマラソンのようなキャンペーンでたくさんの店舗からいろいろな商品を買うとお得になるのだが、ポイントのために無駄な買い物はしないことをまずきちんと決めておいた。
(2)同じ商品は安い店から買う。
(3)(2)の派生ルールで、ポイント込みで計算するとそちらのほうが安くなる商品を買う場合は、そのポイントは還元率の計算から除外する。これはたとえば同じ商品について980円でポイント1%のお店と1000円でポイント10%還元のお店がある場合、後者のほうが実質的に安いのでそちらで買うのだけれど、ポイント還元率を計算する際には9%分のポイントは計算から除外するわけだ。つまり貪欲にキャンペーンのポイントを取りにいきながら、あくまで還元率の計算は冷徹に行うのである。
そしてもうひとつ、あとあと大切になるルールは、
(4)すぐに必要なものでなければ、最大1週間ぐらい買うのをがまんして最適なタイミングを狙う。
というものである。たとえば楽天の場合、水曜日に感謝デーが行われることがよくある。月曜日に「そういえば事務所のペットボトル飲料を補充しておかなきゃ」と思ったときなど、まだ在庫がある場合は水曜日まで待つわけだ。
楽天のキャンペーンはいろいろなものが同時にエントリーできる場合が多い。水曜日の感謝デーでポイントが+3倍の時と、楽天イーグルスが勝利した日が重なると、ポイントは合計で+4倍獲得できるようなことがおきるからだ。
年間で6万円も差
さてこのようにルールを決めてきちんとキャンペーンポイントを取りに行くようにしたら、楽天市場でのポイント還元率はどう変わったか?
個人的にキャンペーンマネジメントを始めたら毎月の還元率が少しずつ目に見えて上がっていった。当初3.3%だった還元率は、半年後には7%前後に増え始めた。しかしこれはまだ始まりにすぎない。
キャンペーンをチェックしているうちに、楽天のキャンペーンの発生パターンを裏読みできるようになってきた。さきほど紹介した水曜日の感謝デー狙い以外にも、いくつか定番のキャンペーンが存在するのだ。
そういったキャンペーンに乗りながら買い物をすることで、1年後、私の楽天でのポイント還元率は定常的に2けた台に乗るようになってきた。直近の成績は13.4%、つまりキャンペーンマネジメントを始める前よりも10%も私の買い物のポイント還元率は高い。私は仕事で必要なものと個人の買い物合わせて、月平均で5万円ほど楽天で買い物をしている。だからキャンペーンマネジメントを始める前と後とで得られるポイントは月5000円、年間で6万円も差が出たことになる。
そういうと驚く方もいらっしゃるかもしれないが、実は楽天での買い物は誰でも7%程度のポイント還元はすぐに実現できる。というのは、通常ポイントに加えて楽天カード決済で、スマホアプリから購入し、楽天イーグルス勝利の翌日に買うようにすれば、それだけで(12月までの特別ルールを加えても)5%のポイント還元になる。書籍や電子書籍を仕事で頻繁に買う人はそこにポンカンというキャンペーンを加えると、比較的楽にさらに2%ポイントが積みあがって7%還元になるのだ。
ここまでのポイント獲得を基本にしつつ、さらに楽天が売り上げを増やすために仕掛けてくるキャンペーンを狙い撃ちすることで、13.4%はかなり難しいとしても10%超えの還元率に到達することはそれほど難しくはないのだ。
漫然とする顧客
この話を楽天の幹部の方に非公式にしたところ、さすがに2けたのポイント還元率を稼がれてしまうと楽天としても利益が出せないそうだ。逆にいえば、世の中にはここまでマネジメントをする人がいないからこそ、顧客のちょっとした射幸心をあおるポイントキャンペーンで、ネット通販会社は売り上げを増やすことができているわけだ。
つまり今回の話の本当のポイントは、がんばれば楽天よりも儲けることができるということではなくて、世の中の大半の顧客行動は13.4%のポイントを取りに行くのではなく、2年前の私のように3.3%のポイント還元で漫然と満足している人の方がはるかに多いということなのだ。
大半の人ががんばっていない世の中だからこそ、ネット通販会社は儲けることができるという話なのである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)