収益の向上だけを見ていると、事業を行う上で最も重要な「顧客」への想いがおろそかになり、ひいては売り上げにつながらず事業がうまくいかなくなってしまう。もちろん、収益を好転させることは事業として必須であるが、手段にすぎない。経営学者P.F.ドラッカーが言っているように、事業の目的は「顧客」の創造なのである。
先日、筆者の塾生から「金のえび天」というおせんべいをもらった。名古屋土産で有名な坂角のえびせんべいのメーカーの「限定品」とのことで、パッケージも凝っている。さっそく袋を破って食べてみたら、いつも食べ慣れている「坂角のえびせんべい」よりも、こころなしかパリッとしている気がした。それもそのはず、1枚1枚が個別包装になっていて、そのパッケージのひとつひとつに乾燥剤が貼り付けられていた。やっぱりせんべいは「パリッと」していればいるほど美味しい。少しでもしんなりしていると、その瞬間に食べる気が失せてしまう。だからこそ、乾燥剤をえびせんべいの個包装の中に入れたのだなと思われる。
この発想は「売り上げ・利益至上主義」の企業からは出てこない。担当者が「やりましょう」と発案しても、上司が「そんな無駄なものをつくったら、いくらかかるんだ。儲からない商品なんか出せるか」となってしまう。想像するに「もっとパリッとした食感を楽しんでもらえないだろうか?」という顧客中心の視点から出たアイディアであろう。
このような画期的なアイディアを実現できる力こそが、売れる理由なのだ。
画期的な顧客視点のアイディア
筆者が週に1度講義に行っている関西学院大学大阪梅田キャンパスがある茶屋町アプローズタウンには、スターバックスコーヒーがある。講義前にここで1杯のコーヒーを飲みながら講義のレビューをするのが毎週楽しみなのだが、ある日、袋入りの1杯分の「スタバのインスタントコーヒー」をもらった。なんともかわいらしいスタンプが、カップに押してある。この店舗の15周年を記念したプレゼントとのことである。
スタンプを見ると、どうやらスタバ本社から全国統一で支給されたものではないことがうかがわれる。この店舗、オリジナルの企画だと想像できる。
こういった顧客視点の販売促進を店舗ごとに自主的に企画し実施できるところが、スタバの独自の強みである。同社は「第1の場所である自宅、第2の場所である学校や会社に続く第3の場所(=サードプレイス)を提供する」というコンセプトを掲げている。
見習うべきは、
1.顧客に対する思いやりが発想できるか
2.理念を浸透させて、それぞれの従業員が実施までこぎつけることができるか
という点にある。
まず、売り手目線での物事の考え方ではなく、相手の立場に立っているかどうか、すなわち常に顧客視点でいられるかどうかに尽きる。
また、画期的な顧客視点のアイディアを実施できるかどうかは
1.理念を明文化し
2.従業員が実践できるように行動指針に落とし込み
3.見える化、見せる化をどちらもし
4.毎日繰り返し従業員が反復する
という4ステップでこそ成し得ることができる。
何事にも王道はなく、地道な一歩一歩の積み重ねが、このような顧客中心の考え方を生み出せるのだ。企業なので収益を好転させねばならない。しかし、顧客を創造することを目指していくことで収益が好転するのである、ということを教えてくれる素晴らしい実例だった。
(文=理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)