カルビー、常に驚異的な成長継続の秘密…なぜ子供数減でも菓子売上が右肩上がり?
日本のお菓子業界1位は、ご存知の通りカルビーだ。同社は年間売り上げ100億円以上のブランドを数多く持つが、「かっぱえびせん」は発売51年を経ても同100億円規模を維持し続けている。また、「じゃがりこ」は発売20年にして同350億円を超え、いまだに成長し続けている。2015年度の売上高は2222億円で、14年度の1999億円から11%伸ばしている。
たまたまインターネットでカルビーの記事を眺めていたのだが、筆者はここで以下のような疑問を抱いた。
「なぜカルビーは成長し続けることができるのか?」
「少子高齢化が進む日本のマーケットでは、お菓子業界のターゲットとなる子供の数が減り、市場が縮小しているのではないか?」
「だから、カルビー含め、多くのお菓子業界のプレイヤーは厳しい戦いを強いられているのではないか?」
これらの疑問に対し最初に考えた仮説は、「少子高齢化により国内市場は縮小している。だから、カルビーの国内売り上げは伸び悩んでいる。しかし、海外売り上げが好調であり、その結果カルビーの業績は好調なのである」というものだった。
そこで、カルビーの15年5月のグループ決算説明会資料を読み込んでみた。わかったことは、以下の通りだ。
確かに、海外売り上げは、158億円(14年)から224億円(15年)と伸びている。しかし海外比率は10%にすぎず、カルビーの成長に大きくインパクトを与えるものではない。むしろ、国内スナック売り上げが1574億円(2014年)から1676億円(2015年)に伸びており、今でもそれが伸びていることが、カルビー好調の要因なのである。したがって、「海外売り上げが好調であり、その結果カルビーの業績は好調なのである」という初期仮説は間違っていることがわかった。
実は、日本のお菓子市場は縮小していない。先述の15年5月のグループ決算説明会資料によれば、14年の国内菓子市場は3.25兆円で、06年の3.2兆円と比較しても微増しているのである。カルビーが主力としているスナック菓子市場も14年の市場規模は4218億円であり、06年の3700億円から右肩上がりで上昇している。チョコレートにいたっては、06年の4100億円から14年の4860億円と成長著しい。
子供の数は減少しているのに、なぜなのだろうか。子供の胃袋の大きさは変わっていない、つまり1人あたりの販売数量は伸びないはずなのに。
新たなターゲット創出
そこで、次の仮説が生まれる。
「お菓子業界は、新たなターゲットを創出することにより、市場規模を拡大している」
確かに13年以降、大人需要の拡大が続いている。「大人のきのこの山」(明治)、「KitKatオトナの甘さ」(ネスレ)、「カントリーマアム 大人のチョコチップ」(不二家)など、落ち着いた色合いのパッケージと素材のこだわりを押し出した商品が人気を博している。
コンビニエンスストアでも「大人の菓子需要」取り込みが進んでおり、ファミリーマートでは12年から中高年層をターゲットとした「おとなのおやつ」を展開し、ローソンは14年から原材料や製法にこだわった「大人向けプレミアム菓子シリーズ」を開始している。
カルビーも「大人向け」に対し積極的に展開している。大阪の阪急うめだ本店地下1階にあるカルビー直営店舗「GRAND Calbee」では、カルビー史上「最厚」となるポテトクリスプを販売し、休日は整理券が配布されるほど人気を博している。同社の伊藤秀二社長も、大人向けへの浸透シナリオとして「まず若い女性をターゲットに、健康とか素材感とかキーワードを出して話題を作り、その次に周囲にいるおばさん、おじさんにつなげていく」ことが重要だと指摘している。
マクドナルドの成功体験
かつてマクドナルドが強かった時代、このような「子供の頃の使用体験」を継続し、ターゲット顧客を拡大する施策がうまく機能していた。幼稚園児、小学校低学年向けにハッピーセットを発売し、ポケモンや仮面ライダーなど、「旬」のおもちゃを呼び水に、マクドナルドの使用体験を積ませる。その後、彼らは中学生になり高校生になり、学校帰りに友人と「喫茶店代わり」「受験勉強の自習室代わり」にマクドナルドを使用する。やがて大学を卒業し、子供ができたママは、ママ友との「喫茶店代わり」にマクドナルドを使用し、そこで一緒に来店した子供は、「子供の頃の使用体験」を積み始める。
カルビーも、ポテトチップスやかっぱえびせんなどの「子供の頃の使用体験」を継続させ、大人向けへの販売を強化しているわけだ。
したがって、2番目の仮説であった「お菓子業界は、新たなターゲットを創出することにより、市場規模を拡大している」は、正しかったといえる。
もっとも世代セグメント別の売り上げ増減については、まだわかっていない。だから、お菓子業界各社が、大人需要の取り込みを図っていることはわかるが、それが功を奏しているかどうかは、まだ確実だとはいえない。
しかし、新聞やビジネス誌を読みながら、常にこのような疑問を持ち、自分なりの仮説を持つこと。そして、仮説に対する検証を行うこと。これがビジネス分析の視点を持つうえで必要なセンサーとなる。ちょっと時間をかければすぐにできることなので、ぜひ読者諸氏もチャレンジしてみていただきたい。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院<社会科学系>准教授)