ソニーは液晶テレビ「ブラビア」とビデオカメラ「ハンディカム」、携帯電話「エクスペリアZ」に相互接続性を持たせることで、米アップルや韓国サムスン電子から消費者を奪い返そうとしているのだ。新型のスマホ「エクスペリアZ」に軸足を置くが、ソニーはパナソニックのようにテレビに見切りをつけていない。
CESの会場では、こんなハプニングもあった。平井社長が自信満々で紹介した56型の4Kタイプの有機ELテレビの画面に、「美しい」とされる映像はついに現れなかった。テレビそのものではなくシステムの不具合だそうだが、平井氏が自ら行ったデモンストレーションは失敗に終わり、会場のあちらこちらから落胆のため息が漏れた。
CES会場でシャープの高橋興三副社長は「テレビを捨てると考えたことはない」と、今後もテレビ事業に力を注ぐ考えを示した。ソニーもシャープも、テレビに未練たっぷりである。
長年、ライバル関係にあったパナソニックとソニーは、次世代のテレビ技術とされる有機ELで手を組んだ。12年6月25日のことだ。歴史的な提携なのに記者会見はなく、プレスリリースが1枚配られただけだった。有機ELは液晶に比べ、確かに解像度では優れているが「テレビが白黒からカラーに、ブラウン管から液晶に移行したようなインパクトはない」といわれている。有機ELがポスト液晶となることについて、疑問視するアナリストは少なくない。
ソニーとパナソニックの有機ELパネルでの提携は、「有機ELテレビが将来的に中核事業と位置付けられていないからだ。中核事業に大化けするようなら、自社開発するはずだ」との評価が定着している。
事業を整理する方法は2つある。
ひとつは売却する方法。パナソニック傘下の三洋電機が、中国家電大手ハイアールに白物家電事業を譲渡した。ソニーがサムスン電子との液晶パネルの合弁事業を解消し、持ち株の全株をサムスンに売却したのがこれに当たる。
もうひとつは、問題を抱えた事業を持ち寄って別会社を設立する方法だ。電機業界では、この方法が最も多い。エルピーダメモリ、ルネサスエレクトロニクスの2社は、NEC、日立製作所、三菱電機の半導体製造設備の統合によって誕生した。ジャパンディスプレイは、ソニー、東芝、日立の中小型液晶パネル事業を統合した新会社だ。
こうした統合は、問題を先送りするだけに終わることが多い。エルピーダは経営破綻し、米国企業に身売りした。ルネサスも経営が悪化し、政府系投資ファンドの産業革新機構が救済に乗り出した。NEC、カシオ計算機、日立が設立した携帯電話のNECカシオモバイルコミュニケーションズは深刻な業績不振に陥っている。
パナソニックとソニーの有機EL事業についても、本体から完全に切り離して、産業革新機構から出資を受け、新しい会社に衣替えする計画が浮上している。
電気機械や発電機などを扱う重電の日立、東芝、三菱電機の業績は安定している。これに対してパナソニック、ソニー、シャープなどの民生機器は、テレビに代表される、大量生産、大量消費が事業の前提になる。だが、液晶テレビはパネルなど必要な部材さえ集めれば誰にでも作れる汎用化(コモディティ化)が進む。
生き残るには、米アップルのアイフォーンのような世界に衝撃を与える商品をつくり出すか、サムスン電子のように徹底したコスト削減で価格競争を勝ち抜くかしかない。
こうした観点からすれば、現在、再編の主流となっている官民共同のファンドによる事業統合は、時間稼ぎにすぎず、根本的な経営体質の改善にはつながらないことが分かるだろう。
(文=編集部)