「コクヨが主張してきた、ぺんてるの連結子会社化という目論見は阻止された。ぺんてるの自主独立の経営・事業活動を継続することが確保された」
12月13日、ぺんてる(和田優社長、非上場)やプラス(今泉嘉久会長兼社長、同)などが連名で出した資料にこんな文言が盛り込まれた。プラスはぺんてるの経営陣の方針に賛同する「ホワイトナイト(白馬の騎士)」となり、ジャパンステーショナリーコンソーシアム合同会社(JSC)を11月に設立。JSCが1株3500円で12月10日まで、ぺんてる株式の買い付けを進めてきた。目標は上限が33.4%、下限が20%。20%を下回れば買い付けないとしていた。
プラスが買い付けたぺんてる株(約200人、持ち株比率にして約30%)に加え、ぺんてる経営陣やプラスとの提携を支持する株主の保有分を合わせて、「持ち株比率にして50%を超える結果となっております」と勝利宣言をした。コクヨ(黒田英邦社長)は今春、間接的にぺんてる株37.8%を保有。9月に直接出資に切り替え、ぺんてる側と提携協議を始めたが、進展しなかったため、11月に敵対的買収の意向を表明した。目標は50%超。過半数の株式を握り、ぺんてるを連結子会社に組み入れることを狙った。
コクヨは当初1株3500円で買い付けると表明したが、ホワイトナイトとして参戦してきたプラスが同額の買い付け価格を提示したため、コクヨは2度にわたり引き上げ、最終的には1株4200円とした。コクヨは12月12日、ぺんてる株主から株を買い取る売買契約が済んだ株式が、議決権ベースで45.66%になったと発表した。
コクヨはもともとぺんてる株の37.8%を持っており、実際に買い付けたのは約7.86%だけ。売買契約が済んでいない0.6%を加えても過半に達しない。コクヨが仕掛けた、ぺんてるの敵対的買収は失敗に終わった。
OB株主の争奪戦に発展
非上場会社であるぺんてるの株主は、およそ340人。筆頭株主であるコクヨが持つ37.8%のぺんてる株式は、ぺんてるをクーデターで追われた創業家の三代目、堀江圭馬前社長が保有していた分を、1株3000円で手に入れたもの。従業員と役員の持株会が計13.5%。圭馬氏以外の一族の保有分が約13%。残る35.70%がOBや取引先の持ち分とみられていた。コクヨとプラスによるぺんてる株式争奪戦は、OBが保有している株式が標的になった。双方ともOBの取り込みに動いた。
「コクヨが、突然、ぺんてるに対して敵対的買収を始めています。コクヨへの敵対的買収に応じることなく、ぺんてるの経営陣が最善と考えるJSCからの買い受けにご応募いただくよう、お願い申し上げる次第です」
11月20日以降、ぺんてる株主にこんな手紙が届き始めた。差出人はぺんてる元社長の水谷壽夫氏。ぺんてるの最長老だ。
コクヨ側についたOBもいる。ぺんてる元専務の池野昌一氏は11月24日、「安易に(ぺんてるの)現経営メンバーやプラスの誘いに乗らないように」と訴える手紙を配り始めた。プラスが株を取得すると、「経営は確実に迷走してしまう」と訴えた。コクヨはOBの取り込みを確実にするため、買い付け価格を一気に4200円に引き上げた。OBは高齢者が多い。保有株を売却して、老後資金に充てたいと考えたOBも、かなりいたはずだ。「どちらにも売らない」としてきた株主も4200円なら考えるだろう、との読みがコクヨ側にはあった。
だが、蓋を開けてみたらコクヨが取得したのは、わずか8%弱にとどまった。プラス側は上限目標の33.4%には届かなかったが、30%を取得した、としている。買い付け価格が4200円と高かったコクヨではなく、3500円と安いプラスへの応募が多かったのはなぜか。
ぺんてるは「多くの株主の皆様が、金額の多寡でなく、ぺんてるが目指してきた価値観に共感され、ぺんてるの存在意義を認められたことが、この結果に表れているものと受け止めています」とコメントした。
「クーデターで追われた堀江氏がテレビにしゃしゃり出てきて『コクヨ支持』のようなニュアンスで話したことが、逆バネに働いた。水面下でつながっているのか、ということになった」(ぺんてる関係者)
ぺんてるの経営陣は「コクヨと続けてきた協力関係の構築に向けた協議を中止する」と決断をした。コクヨに対して“絶縁”の意向を示したわけだ。
「経営陣総取り換え」発言で墓穴を掘る
コクヨはなぜ、買収に失敗したのか。コクヨの黒田社長は11月26日付日本経済新聞のインタビューで、「ぺんてる株を過半数取得できた場合、同社の経営陣を刷新する」意向を示した。そのうえで、「執行役員や現場のリーダーには優秀な人材がたくさんおり、その中から(新しい役員を)抜てきしたい」と述べ、新社長をぺんてる社内から選任する方針も明らかにした。
「ぺんてるの経営陣を刷新する」といった強権的な発言がマイナスに働いたことは否めない。ぺんてる株のM&Aに関して当初、コクヨはトリッキーな方法を取り、最終局面で札束でぺんてるの株主の頬を叩く格好になったのは、まずかった。株主たちは「若造が何をぬかす」と反発。勘定より感情で応募先を決めたのかもしれない。コクヨ創業家出身の黒田社長の未熟さが最大の敗因だとする声もある。経営陣の刷新は、実際に経営権を手に入れたあとで粛々と進めればよかった。
コクヨは101億円でぺんてる株を手に入れ、さらに追加取得に動いた。しかし、過半にとどかず、経営権を握れない。投資した株式は塩漬けになりそうである。上場企業であるコクヨは、株主にどう説明するつもりなのだろうか。
ぺんてる株の争奪戦の結果、コクヨは45.66%、ぺんてる・プラス連合は50%超を保有したことになる。株主総会で双方が拒否権を発動できる異常な状態になった。混乱は長期化するだろうし、ぺんてるの経営の舵取りはいっそう難しくなった。
(文=編集部)