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東京の火葬場“独占企業”東京博善、中国系企業が獲得目前か…ちらつくラオックスの影

文=編集部
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ラオックス秋葉原本店(「Wikipedia」より/Musashikoganei)

 印刷などを手がける廣済堂(東証1部上場)は親孝行な子会社、東京博善(東京・千代田区)を持っている。都内に6カ所の火葬場を運営している高収益会社だ。東京博善を狙って多くの投資家が群がった。澤田秀雄氏が率いる澤田ホールディングス、米投資ファンドのベインキャピタル、旧村上ファンドの村上世彰氏。さらに、免税店ラオックス社長の羅怡文(ら・いぶん)氏が新たに登場してきた。火葬場の争奪戦である。

 火葬場は全国的にほとんど公設だが、東京だけは例外。23区に9カ所あるが、公設は2カ所だけ。民営7カ所のうち6カ所が東京博善。町屋、落合、桐ヶ谷、四ツ木、堀ノ内、代々幡の火葬場を運営している。東京博善は東京23区で死亡した人の7割以上の火葬を一手に引き受けるガリバーなのである。

 東京博善の創業者は、1881(明治14)年に牛鍋屋「いろは」を開店、後にチェーン展開させた実業家・木村荘平氏。明治後半に、全国で寺院が運営する火葬場が自治体直営に転換するなか、東京では東京博善が自治体に先駈け、ほかの火葬場を統合したことから民営の火葬場として残ったとされる。

 1983年、廣済堂の創業者、櫻井文雄氏が東京博善の筆頭株主となり、85年、会長兼社長に就任した。東京博善の大規模増資を引き受け、94年に廣済堂が6割の株式を手に入れ、子会社に組み入れた。廣済堂は戦後の1949年、櫻井謄写堂として創業した。政財界のフィクサーとして知られる櫻井氏は、印刷会社から出発し、70年代から80年代にかけて、不動産開発、ゴルフ場経営、出版、葬祭など、さまざまな事業に手を出した。かつては多くのゴルフ場を経営するゴルフ場会社というのが実態だった。

 2004年11月、ドンが83歳で死去。巨額な借入金を返済するため、“負の遺産”の整理に着手。ゴルフ場子会社を次々と売却した。

東京博善の純資産は実に455億円

 現在、廣済堂の屋台骨を支えているのが東京博善だ。廣済堂の2019年4~9月期の連結決算は、売上高が前年同期比2%増の170億円、営業利益は同7%減の5億5300万円、最終損益は6億4800万円の赤字と低迷した。事業セグメントは「情報」「葬祭」「その他」の3つ。創業事業の印刷は、出版、人材とともに「情報」として括られている。4~9月期の「情報」の売り上げは128億8000万円、セグメント営業利益は3億9100万円の赤字である。

 一方、「葬祭」の売り上げは41億6900万円でセグメント利益は11億7600万円の黒字。全社の営業利益は5億5300万円だから、葬祭部門が赤字を補塡し、本社の経費も賄って、なおかつ、これだけの営業利益を生み出しているということだ。

 廣済堂は今や、葬祭会社なのである。株式市場は東京博善という“ドル箱”を、うまく経営に生かせず、株価に反映できていないことに苛立ちを隠さない。23区内に火葬場の新設は事実上不可能だし、本格的な“多死社会”が訪れるのはこれから。東京博善は競合相手がほとんどいないのだから、未来の果実は大きい。

 東京博善は超優良会社なのだ。単体の19年3月期の売上高は87億4500万円、当期純利益は9億3300万円。無借金で毎年、利益を積み上げてきたことから、純資産は、実に455億円もある。“金の卵”である火葬場の争奪戦の火ぶたが切って落とされた。

米ベインと旧村上ファンド勢がTOB合戦

 廣済堂は土井常由社長が主導して19年1月に、米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBO(経営陣が参加する買収)による上場廃止の方針を打ち出した。ベインはTOB(株式公開買い付け)を実施して完全子会社にすることを目指した。

 創業家で第2位の大株主の櫻井美江氏と社外監査役の中辻一夫氏がこれに反対。投資家の村上世彰氏が率いるレノ(南青山不動産と共同で所有)が、MBOに対抗するTOBを仕掛けた。TOB合戦となったが、いずれも不成立に終わった。

 ここ数年、廣済堂は経営の混乱が続いた。18年6月の定時株主総会では、創業家の櫻井美江氏が、株主総会の交通整理をする検査役の選任を求めるなど、経営陣と創業家の対立が続いていた。MBOを実施して廣済堂を非上場会社にするのは、「ウルサ型の株主を一掃するのが狙いだった」(関係者)。だが、MBOは失敗。19年6月の株主総会で土井氏は社長を退任、常務取締役の根岸千尋氏が新しい社長に就任した。

真打ちはラオックス・羅怡文社長

 新体制に移行する過程で、免税店の運営会社、ラオックス社長の羅怡文氏の姿が大きく浮かび上がってきた。廣済堂の筆頭株主で、格安旅行会社エイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄氏が会長を務める澤田ホールディングスは19年7月1日、廣済堂株の売却を決議した。澤田HDは発行済み株式の12.39%にあたる308万8500株を保有していた。売却額は23億1600万円だったから、1株約750円で売ったことになる。澤田HDは20年3月期に17億6100万円の売却益を計上する。

 澤田ホールディングスが保有していた株式はどこへ行ったのか。売却先はグローバルワーカー派遣だった。中国語新聞の発行や中国の映像コンテンツを発信する中文産業の100%子会社。中文産業は羅氏が設立し、羅氏の子息や妻が全株式を保有する羅氏の“個人カンパニー”である。

【廣済堂の大株主】(19年9月末時点、持ち株比率)

グローバルワーカー派遣       12.40%

櫻井美江              9.69%

レノ                8.71%

南青山不動産            4.76%

アジアゲートホールディングス    3.34%

 ドタバタ劇の渦中に、住友銀行(現三井住友銀行)出身の松沢淳氏が廣済堂の社外取締役に就任した。17年9月から一時、ラオックスの経営企画部長を務めていた人物。すみれパートナーズというファンド運営会社の取締役を経て、廣済堂の社外取締役に就いた。同時に、松沢氏はアジアゲートホールディングスの社長に就任した。公認会計士で同社取締役の加藤正憲氏が廣済堂の社外取締役である。アジアゲートの旧社名はA.Cホールディングス。仕手銘柄として有名だった。

 廣済堂の創業者の妻で、第2位の株主の櫻井美江氏は、19年11月18日、保有する株式の一部を羅氏に売却した。売却後の保有比率は5.68%と4ポイント低下した。羅氏は4%を保有する第5位の株主となった。羅氏はグローバルワーカー派遣、アジアゲートと合わせて19.72%を保有する大株主として登場してきた。

株集めの狙いは火葬ビジネスノウハウの習得

 中国の国営通信会社・新華社は19年12月6日付でラオックスの増資が完了したと報じた。

<中国家電量販大手の蘇寧易購集団(スニン・コム)が傘下に持つ日本の免税店大手ラオックスは(12月)4日、蘇寧電器集団の完全子会社GRANDA GALAXY LIMITED社と、東京に本社を置くメディア・通信企業の中文産業の完全子会社グローバルワーカー派遣を割当先とする第三者割当増資により、84億3400万円の調達を完了したことを発表した。使途は中国向け貿易・グローバル電子商取引(EC)事業拡大に伴う運転資金だという>

 ラオックスの株主と廣済堂の株主は重なり合う。廣済堂株の買い本尊は、ラオックスの親会社、蘇寧易購集団の、そのまた親会社、蘇寧電器集団ということになる。増資後、GRANDA GALAXYが32.63%を保有する筆頭株主になる。グローバルワーカーは5.76%で第3位の株主だ。蘇寧電器集団が運営するECサイトが蘇寧易購集団である。グループの中核は、いうまでもないことだが蘇寧電器集団で、中国・深圳証券取引所に上場している。

 蘇寧がなぜ、廣済堂を手に入れようとしているのか。狙いは東京博善である。中国は土葬の風習が根強く残っている。日本は火葬率100%だが、これは世界的にも珍しい。中国政府は土地の有効利用のために土葬を禁止し、火葬を推奨している。地方では土葬禁止に抵抗が強いが、国策である以上、火葬が増えることは間違いない。

 中国で火葬場が大きなビジネスになるということだ。東京博善のノウハウを取り入れて、中国で火葬場チェーンを展開する。これが、蘇寧が廣済堂の争奪戦に参戦した狙いだとみられている。蘇寧の意思を具現化する立場のラオックスの羅氏は、都内最大の火葬場を運営する廣済堂を獲得できるのだろうか。

(文=編集部)

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