石油元売り国内最大手のJXTGホールディングス(HD)は6月、ENEOSホールディングス(HD)に社名を変更する。現在の純粋持株会社JXTGHDの下に3つの中核事業会社を置く体制から、石油の精製販売を担うJXTGエネルギーとJXTGHDを一体運営する体制に移行する。JXTGエネルギーは6月の定時株主総会の開催日に、社名を給油所で使用しているブランドのENEOSに変更する。グループの名称もENEOSグループとなる。
6月の段階では組織の一体運営にとどめるが、将来は新ENEOSHDと新ENEOSが合併することで完全な事業持ち株会社への移行を目指す。JX石油開発、JX金属については、大幅な権限委譲を進め、それぞれの事業の特性に応じ、より自立性、機動性、独立性を高めていく。2社は社名をそのまま継続する。事業持株会社となる新ENEOSHDの下にJX石油開発とJX金属がぶら下がるかたちとなる。
給油所のブランドは「ENEOS」に統一
JXTGHDは源流である日本石油が1999年、三菱石油と合併したのを皮切りに再編を重ね、そのたびに社名を変えてきた。2010年には新日本石油と新日鉱ホールディングスが統合し、JXHDとなった。17年、東燃ゼネラル石油と統合、社名にTGが加わった。給油所では、旧東燃ゼネラル系のエッソ、モービル、ゼネラルからENEOSへのブランドの統一が19年7月に完了した。半世紀以上親しまれてきた、エッソ、モービル、ゼネラルの看板は給油所から姿を消した。
ENEOSは日石三菱石油時代の01年、給油所の新しいブランドとして生まれた。ENERGY(エネルギー)とギリシャ語の新しいを意味するNEOS(ネオス)を組み合わせた造語である。東京オリンピック・パラリンピックの石油・ガス・電気業種のゴールドパートナーであるJXTGは、世界にENEOSブランドを発信できる絶好のチャンスを迎え、広告費を湯水のごとく使っている。JXTGエネルギーのオリンピックCMが連日テレビで流れ、新聞には「東京2020オリンピック聖火リレーを応援しよう」の全面広告が躍る。ENEOS応援団アンバサダーに女優の吉田羊を起用した。給油所のブランド統一した次のステップとして、社名をENEOSに変える。
一連の再編は旧日石主導で進められてきた。人事権も旧日石が掌握した。JXTGHGの杉森務社長は旧日石の販売部門の出身。旧日本鉱業出身の内田幸雄会長は19年6月に特別理事に退き、現在、会長は空席だ。18年6月、JXTGエネルギーのトップに就いた大田勝幸社長も旧日石出身。
「“ドン”と称される渡文明相談役をはじめとする旧日石勢は『日本石油』を再興する構想を描いている」(石油元売り業界の首脳)。
JX金属の本社はJXビルから脱出
JX金属は19年6月、旧日鉱出身の村山誠一氏が社長に就いた。就任早々、20年6月をメドに本社をJXビル(東京・大手町)からオークラプレステージタワー(東京・港区)に移転することを明らかにした。村山社長は「2040年JX金属グループ長期ビジョン」を発表。技術立脚型企業への転身を掲げた。
JX金属は、新日本石油と10年に経営統合した新日鉱ホールディングスの金属事業が母体。日産コンツェルンの一角だった名門・日本鉱業の流れを汲む。そのためか社員のプライドは高い。石油元売り、石油開発、金属の中核3社のなかでもJX金属は、給与体系や文書書式などがまったく異なる。人事交流もほとんどなく、「グループの主導権を握る旧日石勢と反目を続けてきた」(関係者)。労組組合も別だ。
三井金属に売却か
JX金属の本社移転について株式市場では「売却の布石」との見方が広がっている。売却先として、早くも三井金属鉱業の名前が取り沙汰されている。
JX金属と三井金属は00年、共同出資でパンパシフィック・カッパ―(PPC)を設立。銅事業を運営してきた。20年4月、PPCが保有するチリのカセロネス鉱山に関する権益や探鉱などの資源開発事業を、JX金属と三井金属が出資する新会社へ移管する。新会社にはJX金属が67.8%、三井金属が32.2%出資する。
経営統合当時から、JX金属は「石油事業と相乗効果がない」とされてきた。低炭素の潮流の中で、石油の需要が減り続けている。JXTGは事業構造の再構築が急務となっている。JX金属を売却し、水素など再生可能エネルギーといった新たな領域の強化のため、M&A(合併・買収)に踏み出すとの見方が浮上している。
(文=編集部)