トレーニング機器「シックスパッド」や美容ローラー「リファ」を販売するMTG(マザーズ上場)は、再三延期してきた2019年9月期の連結決算を12月9日に発表した。売上高は前期比38%減の360億円、営業損益は144億円の赤字(18年9月期は69億円の黒字)、最終損益は262億円の赤字(同40億円の黒字)となった。赤字転落や決算発表の遅れ、これに伴う株価暴落について松下剛社長は「申し訳ない。業績を再び軌道に乗せ責任を果たしたい」と謝罪した。
中国の電子商取引(EC)規制を背景に、国内外でバイヤー(代理購入業者)が減少。中国や韓国の女性に人気が高かった「リファ」ブランドの美容ローラーの販売が落ち込んだ。リファの売上高は、18年9月期の321億円から130億円へと60%減った。なかでも韓国では、日本製品の不買運動と重なり、美容ローラー関連の売上高は前の期に比べて95%減と激減した。
トレーニング機器「シックスパッド」の売上高は135億円で横ばい。リファの販売が国内外で急減したことによる在庫の評価損や土地・建物の減損損失(77億円)などで100億円の特別損失を計上した。企業の存続に疑念を抱かせる状況を示す「継続企業の前提に関する重要事象等」を決算短信に掲載した。
19年9月末時点の現預金残高は138億円。前年同期比で5割強減ったが、借入金はなく自己資本比率は77%である。「今期計画は現在の現預金で対応可能」(松下社長)としている。
同時に発表した20年9月期の連結業績予想は売上高が前期比5%増の380億円、最終損益は20億円の赤字の見込み。19年9月期の決算発表は、当初は11月14日だったが、韓国子会社の取引先の在庫状況について会計監査人に通報があったとし、延期した。発表が決算期末50日を超える見通しとなったが、社内調査に時間がかかるとして再度延期。12月9日、発表にこぎつけた。韓国の事案について「決算への影響はなく、監査法人の了承も得た」(松下社長)という。
MTGはサッカーのクリスティアノ・ロナルド選手や歌手のマドンナを使った派手なプロモーションで急成長。18年7月の東証マザーズ上場前から、企業価値が10億ドル(約1100億円)を超す新興企業「ユニコーン」として前評判が高かった。新興ベンチャーの期待の星は、なぜ失速したのか。
中国・上海子会社で不適切な会計処理が発覚
MTGは19年5月、中国・上海の全額出資子会社MTG上海で不適切会計処理が判明した。監査法人トーマツから指摘があった。MTGは、第三者委員会(委員長:伊藤尚弁護士)を設置。7月12日、第三者委がまとめた調査報告書を公表した。第三者委は中国子会社の会計処理を不適切と認定。これを受けて決算内容を見直した。
19年3月中間決算については、最終損益は5300万円の黒字から57億円の赤字に訂正。19年9月通期の最終損益も当初予想の6億円の黒字から85億円の赤字に下方修正した。海外事業担当の中島敬三常務が取締役を辞任するほか、松下社長が1年間、月額報酬を返上するなど社内処分を決めた。だが、赤字額は収まらなかった。
報告書によると、MTG上海から商品を仕入れ、中国の越境電子商取引(EC)業者に販売するX社との取引は18年9月に始まった。MTGは売れ残りの買い戻し保証をした。ところが、X社は最初からつまずき、MTGに在庫の買い戻しを要請した。商品がMTGからX社に渡った段階ではなく、X社がEC業者に売った時点でMTGの売り上げとすべきだったと指摘した。MTGは会計処理を見直して、X社向けの売上高の42億円を取り消した。
「多少の無茶は目をつぶってください」。19年3月、MTG上海の副総経理は、海外事業を担当する中島常務にこんなメールを送ったという。ここでいう無茶とは、買い戻しを保証した上で取引先に商品を納め、この段階で売り上げとして計上する行為を指す。
なぜ、こんな無茶な会計処理に手を出したのか。背景には、高成長を支えたインバウンド(訪日外国人)需要の失速がある。上場と相前後して日本や韓国で中国人旅行客の美顔ローラー「リファ」の“爆買い”が急減した。19年1月、中国による規制強化が追い打ちをかけた。転売目的の購入が厳しく制限され、転売目的の代理購入業者は、事実上、商売できなくなり、姿を消した。
京セラ出身の大田氏を会長に招き、再建に取り組む
MTGの株価は暴落した。上場した2日後の18年7月12日には8120円の高値をつけた。上場来安値は19年11月22日の754円。19年大納会(12月30日)の終値は869円だ。上場3年以内に株価が公開価格の10分の1以下になると上場廃止になるという3年ルールがある。MTGの公開価格は5800円。これ以上、株価が下落すると、3年ルールに抵触する恐れがある。
株式公開時に2800億円を超えていた時価総額は一時、445億円にまで目減りした。ガバナンス(企業統治)を強化するため19年9月、京セラ出身で日本航空(JAL)の再建に携わった大田嘉仁氏が会長に就任した。経営改革を指導するという。
(文=編集部)