1月20日、外食チェーンのすかいらーくホールディングスが4月までに24時間営業を全廃すると発表した。人手不足や夜間の客数減などが理由だ。
こうした時代の流れに逆行するセブン-イレブン・ジャパン本部に、浪速のある店舗オーナーが“クーデター”を起こした。1月7日、東大阪市の近鉄長瀬駅から20分ほど歩いたところにあるセブン東大阪南上小坂店を訪れると、棚にほとんど商品がない。「なんや、パンもあれへんの」と驚く女性客に男性店員は「契約を打ち切られてしまって品が入ってこないんです」と詫びていた。残った品は見切り価格で販売していた。
同店の松本実敏オーナー(58)は、昨年12月31日付でセブン本部からフランチャイズ(FC)契約を解除された。契約解除の理由は「客からのクレームが日本一多い」だった。実は松本氏は「トイレを貸さない」「駐車場の有料化」「ごみ箱を外に出さずに店内にだけ置く」を敢行してきた。理由は簡単。「客のモラルがひどすぎる」(松本氏)からだ。
「トイレからペーパーや芳香剤を持ち去る。鍵をかけて充電器をつないでゲームをしている。駐車場に車を何時間も置かれるので20分以上は有料としたが、守られない。外に置いたゴミ箱には犬の糞や絨毯まで捨てに来るのです」
レジに並ばないお客さんに注意すると「なんで並ばんとあかんねん」と食ってかかられる。「お前出ていけ」と怒鳴って注意したが、逆にインターネットなどで中傷されてしまう。
「私は口が悪いのでネットでいろいろ悪く書かれていましたが、言い過ぎたことなどは反省し、基本的に解決しています」
では、解除の理由は本当に顧客の苦情だったのか。
松本氏は昨年2月、24時間営業をやめて午前1時から6時まで閉店するようにした。妻が前年にがんで亡くなり、人手不足で24時間営業は無理だった。
「最大18人いた従業員も次々と辞めて行った。人手不足で引く手あまたなんでしょう。『明日から来ません』と簡単に言われます。そもそも、深夜から未明なんて完全に赤字。昼間の売り上げで穴埋めしている」
近くには近畿大学や多くの町工場があるが、繁華街でもなく深夜の客もわずか。松本さんは業界に先駆けて無駄な営業慣習を打ち破ろうとしたが、セブン本部は「契約違反」として365日の24時間営業を強要し、「守らない場合は1700万円の違約金の支払い義務が生じる」と言ってきたという。
本部に払うロイヤリティは売り上げの6~7割
12年2月、松本さんは経営していた工務店を畳んで、セブンを開店した。「自己資金250万円を払えばオーナーになれる」という触れ込みに魅かれた。「休みが取れるのか」と本部に訊いたら、「海外旅行に行く人もいますよ」と言われた。ところが、ロッカー、机など備品類や開店時の商品納入の費用として約1000万円を借金させられた。
「体(てい)のいい高利貸しでしたね」
松本氏のFC契約は店の土地を自己所有するAタイプではなく、セブン側から借りるCタイプ。この場合、売り上げから一定割合で本部に取られる「ロイヤリティ」と呼ばれるチャージ代は6割から7割に達する。店の光熱費や人件費などのコストは本部には関係ない仕組みだ。松本氏は「本部は『お客様は神様です』を押し付けて、自分たちは客対応や店のコスト削減などなんの苦労もせず、チャージだけを吸い上げ、搾取するのです」と強調する。
だが契約解除の通知書には、松本さんが打ち出していた「24時間拒否」などの問題は一切、書かれない。
「時短問題で解除した、とマスコミに書かれたくないからでしょう。私がネットであれこれ書かれていた時も、そのことは何も言ってこなかった。本部が違約金や解除をちらつかせたのは昨年2月に時短をやり出してからですね」
松本さんの時短に刺激され今年元旦の休業を提起していた他のオーナーたちは、松本さんの契約解除のニュースを知って怯み、元旦休業を撤回してしまった。
「私に続いて時短とか元旦休業を求めるオーナーなどが出てきて、本部は私を見せしめにしてオーナーたちを脅すのです。本部は缶コーヒー一つでも売れれば自動的にチャージが入る。売るためのコストや労力など何も考えていない。売れようが売れまいが次々と商品を発注させる。本部社員が店に来て勝手に注文をしないか見張っているオーナーもいる。これで大量の食品廃棄も起きる」
親の葬式にすら出られない
松本さんは臆せずにSNS上でも批判してきた。「セブンペイ」の個人情報流出問題でも「社長が出てきて謝罪もしない」などと批判した。松本さんは本部にとって「煙たい存在」だったのだ。
松本さんは1月6日、オーナーとしての地位確認を求める仮処分申請を大阪地裁に申し立てた。8日には仕入れができないことや在庫処分も進んだことで休業することにした。
「私が不在の間に店を更地にされてしまうかもしれないので、店を離れることもできませんでした。24時間営業を強要され、親の葬式にすらまともに出られなかったオーナーや、本部から無理難題をふっかけられて自殺した人すらいますよ」
セブンは道路を挟んでほぼ真向かい同士に店舗があるケースも見かけられる。わざと至近距離に店を配置する「ドミナント方式」だ。本部側は「配送コストを抑えられる」としているようだが、オーナーたちは泣いている。松本さんはローソンなど他のコンビニオーナーと組織する「コンビニ加盟店ユニオン」に加盟している。取材中もかかってきた励ましの電話に、松本さんは「どこまでも戦いますよ」と答えていた。
セブンは米国発祥のコンビニチェーン。松本氏の行動は米ニューヨークタイムズでも報道された。
「お正月などの日本文化を破壊したセブンは、米国ではクリスマスの営業を強要し、オーナーらの組合が反対運動をしています」
セブン-イレブン・ジャパン本部は松本さんの件について「裁判所に判断を委ねているため、弊社としての主張や見解を発表するものではありません」としている。松本さんの話を聞いていると、セブンは店舗オーナーを募集しては彼らを搾取して利益を吸い上げているように思える。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)