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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

年収2百万円台…コンビニオーナー搾取の衝撃的過酷労働 年間休日ゼロで週3日徹夜は当たり前

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授
年収2百万円台…コンビニオーナー搾取の衝撃的過酷労働 年間休日ゼロで週3日徹夜は当たり前の画像1「Thinkstock」より

 11月17日放送の『クローズアップ現代+~「好調」コンビニに“異変”あり』(NHK総合)を見ました。同番組では、大手コンビニチェーンフランチャイズ加盟店の経営実態が明らかにされていました。

 コンビニやフランチャイズ・システムに関しては、ある程度理解していたつもりですが、リアルな数字や実態を突きつけられ、大変衝撃を受けた次第です。

直営店とフランチャイズ加盟店

年収2百万円台…コンビニオーナー搾取の衝撃的過酷労働 年間休日ゼロで週3日徹夜は当たり前の画像2『すごい差別化戦略』(大崎孝徳/日本実業出版社)

 ご存じの方も多いと思いますが、コンビニの店舗は直営店とフランチャイズ加盟店に分けられます。直営店はコンビニチェーン本体により出資・運営されており、通常は社員が店長になり店舗を管理します。一方、加盟店は一般からオーナーを募集し、そのオーナーの資金により店舗が運営され、管理されます。コンビニチェーン本体は自社商標の使用を認め、経営に関するサポートをオーナーに提供する代わりに、ロイヤリティを徴収します。

 フランチャイズは加盟店を募集する側であるフランチャイザー(コンビニチェーン本部など)と加盟店側であるフランチャイジー双方にとって、数多くのメリットをもたらします。

 フランチャイザーにおいては、自らの資金や人材を投入することなく広い地域に多くの店舗を展開することが可能になります。一方、フランチャイジーに注目すると、なんの経験もない素人であっても経営ノウハウをはじめ、さまざまなサポートを受けることにより、ビジネスが成功する確率が高まります。

 また、同じ店長でも社員とオーナーを比較すると、大きな違いが見られます。社員店長の場合、たとえ自らの店の経営状況が悪かったとしても、社内での評価が低下する程度で済みます。しかし、オーナー店長の場合、店の経営状況が自らの所得と直結します。つまり、文字通り生活が懸かっているわけですから、社員店長よりも高いモチベーションで店舗管理を行う傾向が見られ、こうした点もフランチャイザーにとって大きな魅力となります。

 これらの特徴を踏まえ、ゆったりとした雰囲気を大事にするスターバックスコーヒーのようなカフェの場合は、フランチャイズではなく直営店方式、低価格を訴求するカフェの場合はフランチャイズで運営したほうが良いとの指摘もあります。

 なぜなら、低価格店の場合、店の回転率を上げることが重要となるため、こうしたマネジメントは生活が懸かっているアグレッシブなオーナー店長による加盟店のほうに分があり、逆に店舗のブランドや統一感を重視し、ゆったりとした時間を提供するには社員店長による直営店方式に分があると考えられるからです。

 こうしたフランチャイズはコンビニのほか、ラーメン、焼き鳥、居酒屋などの飲食店、さらには英会話、パソコン教室、学習塾といった教育産業など、幅広い業界において広く普及しています。

見切り販売の是非

 フランチャイズというシステムには、このように数多くの優れた点があるものの、フランチャイザーとフランチャイジー間で問題が生じていることも事実です。

 たとえば、ずいぶん昔の話になりますが、セブン-イレブンの加盟店が、消費期限の迫った弁当などの商品を値下げして販売(見切り販売)し、これをセブン本体が妨害したことに対して公正取引委員会が独占禁止法の優越的地位の濫用にあたるとして排除措置命令を出したことがありました。

 こうした見切り販売の是非に関して、もちろん商品の所有権を持つ加盟店がどのような価格で販売するかは、加盟店の自由でしょう。しかし、見切り販売による正規価格の商品の販売機会ロス、廃棄ではなく見切り販売という抜け道により発注や在庫管理に甘えが生じる、さらにはブランドイメージの低下などを考慮すると、セブン本部が見切り販売を行わないという戦略を貫くことにも一理あり、本部と加盟店のどちらの言い分が正しいのかを判断するのは難しい問題であると当時は考えていました。

加盟店の実態

 しかし、今回の『クローズアップ現代+』を見て、こうした考えは変わりました。番組では冒頭から「年間の休日ゼロ」「週3日徹夜勤務」「年収290万円」という衝撃的な数字が紹介されました。

 取り上げられた加盟店の場合、営業総利益(売り上げ-原価)約3823万円から、本部へのロイヤリティ(約50%)約1863万円、従業員給料約988万円、光熱費や廃棄費など約684万円を引いた残りが営業利益(オーナーの年収)となり、その額は約288万円という状況でした。十分にアルバイトを増やす余裕がなく、オーナー自らが年間休日ゼロで週3日徹夜勤務を行っても、収入は300万円にも満たないという訳です。

Win-Winという発想

 こうした数字はコンビニチェーン本部とオーナーとの間で合意した契約の結果であり、本来、フランチャイザーであるコンビニチェーン本部が責められる筋合いはないでしょう。また、加盟店のなかには1000万円を超える年収を手にしているオーナーがいることも事実です。

 もちろん、オーナーがいい加減な店舗管理を行った結果、十分な年収を得られないということならば、それは仕方ないでしょう。しかし、全国2500店の約4割の店舗の営業利益が400万円を下回るという状況は、オーナーの資質や態度の問題というよりもシステム自体に問題があると捉えるべきでしょう。PB(プライベートブランド/自主企画商品)をはじめとする商品の品揃えや、同じチェーン内での加盟店間の距離といった立地戦略など、重要な権限はすべてコンビニチェーン本部が握っているからです。

 筆者はこれまで、契約前に示された理想的なプラン通りに現実はなっていないといったフランチャイジー側の声に対して、気持ちはよくわかるが契約通りに事が実行されている場合、仕方がないという面もあると考えてきました。しかし、今回の実態を知り、いくら契約通りといっても、フランチャイザーであるチェーン本部が大きな利益を得る一方で、フランチャイジーである加盟店オーナーが本部の指示に従い誠実に業務を行っても、なお厳しい状況にある場合は、ロイヤリティの減免など救いの手を差し伸べるべきではないかと強く感じた次第です。

 そもそも、こうした加盟店の厳しい実態が広く社会に広まっていけば新たにフランチャイジーを獲得することが極めて困難となり、フランチャイザーにとっても大きなマイナスとなるはずです。フランチャイザーには、フランチャイジーとの「Win-Win」の関係を強く志向し、加盟店を含めたコンビニチェーン全体の利益の最大化を目指した行動が強く求められるのではないでしょうか。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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