「公的資金で再生したJALが過去最高益を上げながら、法人税を払わないことが許されるのか」。
1月10日、自民党本部で開かれた党税制調査会の幹部会でJALへの批判と法人税減免措置の見直しを求める意見が相次いだ。野田毅会長は終了後、「株主に配当を出せる状況になったからといって、税金を納めずに配当優先でよいのか、(いろいろと)議論がある。対応を検討したい」とコメントした。
「民主党憎し」の自民党が、民主党政権下で再建を果たしたJALに(批判の)矛先を向けた形だ。
JALは2010年1月に会社更生法を申請、負債総額は2兆3221億円だった。政府系ファンドの企業再生支援機構が3500億円の公的資金を投入。民主党の支援者である、稲盛和夫・京セラ名誉会長を経営トップに招き再生に成功した。12年3月期決算では過去最高となる1866億円の純利益を上げた。
JALは12年9月、上場廃止からわずか2年7カ月で再上場を果たした。支援機構は全株を売却。3500億円を借りた銀行に利子をつけて返済した後、支援機構に3000億円の売却益が残った。売却益は国庫に納付された。民社党政権がポイントを稼いだ、唯一無二の成功例といっていいだろう。
自民党が問題視するのは、企業が赤字(欠損金)を出した場合、翌年度以降の黒字(課税所得)と相殺し、法人税が減免される繰越欠損金制度の優遇措置だ。民主党政権はJAL破綻後の11年度税制改正で、相殺できる金額を課税所得の100%から80%に減額したが、会社更生手続きの開始決定を受けた企業は例外として、100%相殺が可能となっている。この優遇措置はJALを想定したものといわれている。
破綻後に9000億円もの欠損金を計上したJALは、19年3月期まで3100億円規模の法人税を減免される見通し。JALが12年3月期に過去最高益を更新したのは、680億円と推計される法人税を減免されたからだ。
自民党税制調査会幹部会によるJALの法人税減免措置見直しが伝わった1月10日の東京株式市場で、JAL株は一時、前日終値比215円(6%)安の3550円に急落した。13年3月期の連結純利益見通しは前期比25%減の1400億円。法人実効税率は40%で、仮に優遇措置が見直されると業績や配当に影響が大きいとの懸念から、個人投資家が売り注文を出したといわれている。
JALは破綻から再建まで、あらゆる局面で政治に翻弄されてきたといっていい。政治主導で再建されたため、再び政争の具となった。
公的支援で金融債務を免除されたことで稼ぎ出した潤沢な資金で、JALが新規路線を開設したり、省エネ効率の高い新しい機体を購入したり、航空運賃を値下げしたりすれば、競争相手のANAへの直接的な打撃になる。ANAは「公平な競争環境が阻害されている」と、ずっと訴え続けてきた。
ANAに呼応したのが自民党だ。12年夏、航空問題プロジェクトチーム(PT)を結成、JALの再上場に異論を唱えた。8月の衆議院国土交通委員会の集中審議の中でJALの再建のプロセスについて厳しく追及した。
政権に帰り咲いた自民党はJAL追及の矛を納めない。公的支援を受けた企業が再建を果たした場合、優遇措置の対象外にすべきだと主張している。優遇税制の見直しで揺さぶりをかける。
だが、自民党が「税の公平な負担」という観点から優遇税制の見直しを俎上にあげたと見る政界人や経済人は皆無だろう。衣の下にはJAL利権の奪取という本音の鎧が見えてくる。