ANAホールディングスのもとに、事業会社の全日本空輸と、関西国際空港を拠点とした格安航空会社、ピーチ・アビエーション、成田国際空港が拠点の同エアアジア・ジャパンがぶら下がる。グループとしての経営方針の決定は持ち株会社に集中させ、各事業会社は業務執行に専念する。
だが、持ち株会社の首脳人事がまだ決まっていない。大橋洋治会長(72)をどう処遇するかがポイントだ。大橋氏は経団連副会長を退き、今、財界関係は、伊東信一郎社長(61)が担当している。
伊東氏は09年4月に社長に就任。2期4年という慣例からすると、13年4月で交代することになる。伊東氏がHD会長なら大橋氏は押し出される格好になり、経営の第一線から退くことになる。一方で、伊東氏がHDの社長に横滑りする案もある。伊藤氏が社長なら、大橋氏は会長で座り具合はいい。
だがそううまくいくのか。次期社長の本命と目されてきたのは片野坂真哉(かたのざか・しんや)専務執行役員(57)。東京大学法学部卒し、本流の経営企画畑を歩み人事部長も経験。09年には、79年入社組のトップを切って取締役に就任した。伊東社長の下で営業推進本部長を務め、管理部門だけでなく営業も経験している。今年4月に専務執行役員に昇格し、企画室を担当している。
全日空は社長候補を早くから絞り込み社内外に分かるように育てる傾向が強い。「オレの次は山元(峯生・前社長、10年1月死去)、その次は伊東(信一郎・現社長)に決まっている」。01年から05年まで社長を務めた大橋氏(現会長)は周囲にこう話していたという。
伊東氏は人事部長を通過点に最速で取締役に就任、出世街道を駆け上がった。過去の例に従えば、伊東氏と同じコースを歩んだ片野坂氏が順当に社長に昇格すると見られている。しかし、人脈的に片野坂氏は大橋氏のラインの人物だ。
つまるところ取締役会議長として実権を握る大橋会長と、名実ともに実権を掌握したい伊東社長の綱引きだ。伊東氏がHD社長なら経営の実権を握り続け、片野坂氏は事業会社・ANAの社長になる。伊東氏がHDの会長なら、片野坂氏が同社長になって実権を握り、大橋氏が院政を敷く構図が考えられる。
今後のANAは、よりいっそう対日本航空(JAL)が重要な経営課題となっている。政府の手厚い保護を受けたJALの再上場は、公平な競争を阻害するとして自民党の航空問題プロジェクトチームとタッグを組んで上場阻止に動いたが、民主党政権に押し切られた。