新型コロナウイルスの感染拡大が日本企業にも打撃を与えている。愛知県蒲郡市の観光旅館「冨士見荘」は近く裁判所に破産手続きの開始を申請する見込みで、新型コロナウイルスの影響で経営破綻する初のケースとなる。収益の柱だった中国人観光客のキャンセルが相次ぎ、1月下旬に中国政府が海外への団体旅行を禁止したことが決定打になったという。
東京商工リサーチの調査によると、新型コロナウイルスによる企業活動への影響について、「現時点で影響は出ていないが、今後影響が出る可能性がある」「現時点ですでに影響が出ている」と答えた企業が約7割(66.4%)を占めるなど、企業活動への影響が顕在化している。「多業種にわたって影響があり、収束の見通しが立たないことから、今年の倒産件数は前年を上回るのではないか」と語る、東京商工リサーチ情報本部情報部の原田三寛部長に話を聞いた。
サプライチェーンの乱れが製造業を直撃か
――新型コロナウイルスの影響で、愛知・西浦温泉の旅館の経営破綻が明らかになりました。
原田三寛氏(以下、原田) 1956年設立の冨士見荘は三河湾を望む景観と新鮮な魚介類を売りに、2005年12月期には約5億5000万円の売上高を計上していましたが、その後、業績不振により資金ショートを起こしていました。近年は中国人ツアー客の受け入れに注力していましたが、新型コロナウイルスの影響で中国からの団体ツアー客のキャンセルが相次ぎ、先行きの見通しが立たなくなったことから事業継続を断念しました。
このように、インバウンドに売り上げを依存しているようなケースは、今回の影響が資金繰りに直結します。今後、短期的には体力のない宿泊業、小売業、飲食業などで経営破綻が増えると見ています。
――1万2348社の国内企業を対象にした調査結果の概要を教えてください。
原田 新型コロナウイルスの影響について、66.4%が「今後影響が出る可能性がある」「現時点ですでに影響が出ている」と回答しています。「すでに影響が出ている」と答えた企業のうち、35.9%が「現地サプライヤーからの仕入が困難となった」と回答。また、感染拡大による懸念については、51.3%の企業が「中国の消費減速、経済の低迷」を挙げています。
企業規模別では、「すでに影響が出ている」は大企業(資本金1億円以上)で31.5%、中小企業(同1億円未満)は20.6%。グローバルに事業を展開し、中国との取引密度が高い大企業のほうが影響が大きいことがわかります。
――産業別では、どのような結果でしょうか。
原田 卸売業、運輸業、製造業で「すでに影響が出ている」が、それぞれ3割近くを占めました。「今後影響が出る可能性」は製造業が51.7%で最多、次いで卸売業の47.3%です。国際的なサプライチェーンを構築する製造業や、価格競争の面から国境をまたいで商品を輸入する卸売業などへの影響が色濃く出たかたちです。宿泊業や旅行業が含まれるサービス業他は38.3%でした。
――日本企業への影響が拡大していることが顕在化しましたね。
原田 濃淡はあるにせよ、観光、小売、製造、建設・不動産など、多くの業種に影響が波及していることがわかりました。中長期的にはサプライチェーンの乱れによる小・零細の製造業者への打撃が懸念され、今後は生産調整などの影響も出てくるでしょう。また、中国の取引先の経営状況を懸念する声も上がっており、中国では企業の信用度に大きな変動が生じているようです。
また、住宅設備機器は中国で製造されたものを輸入しているケースが多く、生産が滞るとマンションなどの全体工期や引き渡しが遅れる可能性があり、デベロッパーにも影響が及びます。さらに、高額の投資用マンションなどはチャイナマネーが流入して活況を迎えていましたが、今後は相場が弱含みになる可能性もあるでしょう。
新型コロナの影響で企業倒産が増える可能性も
――今後、さらに大型の倒産が発生する可能性もあるのでしょうか。
原田 今回、大きな懸念は供給能力の落ち込みよりも、中長期的な需要がどれだけ落ち込むかです。影響が長引けば、大型の倒産もあり得るでしょう。特に、インバウンドに依存していて不動産などに大きな投資をし、資金繰りに不安がある企業はリスクが高いです。
企業倒産は19年に対前年比で11年ぶりに増加(8383件)しました。また、19年12月、20年1月は対前年比で10%以上増えています。最悪のケースを想定すると、20年は対前年比で15~20%増え、9000~1万件に迫るかもしれません。
――企業は中国頼みの経営戦略からの変更を迫られそうですね。
原田 日本はすでに市場が成熟していることもあり、中国の成長に頼る側面もあったことは否めません。中国は世界の工場であると同時に約14億人という巨大市場でもあり、製造と消費の両面で大きなマーケットになっています。今回、懸念材料として多くの製造業がサプライチェーンの乱れを挙げた背景には、中国への依存度が高まっている事情があります。ホテルや旅館などの宿泊業も、中国人頼みの状況では、今回のような事態が起きたときに一気に経営が傾いてしまいます。
与信の世界では1社傾注の取引は危険だというのが常識ですが、いわば1国傾注になりかけている企業も多いわけです。そこで、リスクヘッジのためにビジネスモデルを転換できるかどうかが鍵となるでしょう。
――政府の対応についてはいかがでしょうか。
原田 政府は緊急対策案として、日本政策金融公庫などに5000億円の緊急貸付・保証枠を設け、観光産業などの中小企業を支援する姿勢です。これはいい政策だと思いますが、新型コロナウイルスの影響がいつまで続くかわからないため返済計画も不透明にならざるを得ず、いわば経営者が借りる勇気を持てるかどうかが課題になりそうです。
(構成=長井雄一朗/ライター)