隆盛を誇ったファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOがソフトバンク傘下のヤフーに買収されることが発表されたのは、2019年9月のことだ。ZOZOを手に入れたヤフーはEC事業でアマゾンと楽天市場の2強に追随する構えだが、一方では容赦ない淘汰が進んでいる。
帝国データバンクの調査によると、18年度の通信販売業者の倒産は過去最多の30件を記録するなど、生き残りの激化が鮮明となった。通販業界の現状について、帝国データバンク調査部の箕輪陽介氏に聞いた。
市場拡大の裏で倒産件数が増加
――調査の概要からお願いします。
箕輪陽介氏(以下、箕輪) 最近は小売業者が通販事業を行うケースも多いですが、今回の調査は通販を主業としている業者を対象に行いました。18年度の倒産件数は30件(前年度比172.7%増)で過去最多を更新しています。東日本大震災が発生した11年や14年にも通販業者の倒産が増えましたが、当時を大きく上回りました。
負債総額はケフィア事業振興会の倒産に伴い、過去最大を大幅に更新する1020億5600 万円。負債規模別では「5000万円未満」が20件(構成比66.7%)で最多の一方で、「100億円以上」も5年ぶりに発生しています。業歴別に見ると、「5~10年未満」が12件で40%を占め最多で、次いで「10~15年未満」が7件(同23.3%)、「30年以上」も5社が倒産しており、軒並み厳しい状況が見て取れます。
設立10年未満の企業が半数近くを占めており、30件中28件が従業員10人未満の業者であることも判明しています。新規参入組が行き詰まり、特に小規模事業者の苦境が浮き彫りになっています。
――カタログ通販事業についてはいかがですか。「ベルメゾン」を運営する千趣会は18年に280人のリストラを断行し、トップ交代や本社移転も話題となりました。
箕輪 ネット検索ではなく紙媒体で見ること自体が楽しいという人もいるなど、カタログ通販にはいまだに一定の訴求力はあると思います。しかし、消費者は利便性の高いECサイトに年々流出しているのが実情で、価格面でも厳しい戦いを強いられています。完全になくなることはないかもしれませんが、今の時代に紙媒体でのビジネスモデルは厳しいと言わざるを得ません。
――通販市場は拡大しているにもかかわらず、なぜ倒産が増えているのでしょうか。
箕輪 公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)によれば、国内の通販市場は17年まで19年連続で伸長し、7.5兆円市場となっています。ECビジネスの急速な普及に伴って通販市場自体は拡大しているものの、規模のメリットを享受できる大手通販業者や店舗中心だった小売業者の通販参入によって、顧客獲得や価格競争が激化しています。簡単に言えば、競合が急激に増えたために、あらゆる面で競争が激しくなっているのです。
そんななか、小規模事業者はECモールへの出店などで露出を高めるのが精一杯で、品揃えや対応力の面で弱さが出てしまうほか、物流コストなどを価格に転嫁するのが難しく、利幅の少ない経営を強いられています。一方で、ビッグデータの解析により、購買意欲を煽る「オススメ欄」などの充実に注力している事業者が増えており、今後はそうした施策も鍵を握りそうです。
――通販業界はアマゾンと楽天市場の2強という状態が続いています。
箕輪 両社とも、顧客の囲い込みができています。楽天はモールに加えて、銀行、カード、証券なども持っているところが強みで、経済圏を確立しました。積極的なM&Aが奏功したといえるでしょう。一方、アマゾンはビッグデータの活用はもとより、国内物流網の整備にも注力する動きを見せており、こちらも牙城が崩れなさそうです。
小売業界や飲食業界では小規模事業者の淘汰が進んでいますが、その流れは通販業界も同じです。黎明期は百花繚乱でしたが、次第に淘汰が進み、寡占化が進んでいます。これからは、小規模事業者が単独で生き残るのはさらに難しい時代になるでしょう。ただ、取り扱い商品を特化させる、B to Bに集約する、などの独自路線を打ち出す事業者は生き残ることができると思います。
(構成=長井雄一朗/ライター)