アパレルブランド「アースミュージック&エコロジー」(以下、アース)などを展開するストライプインターナショナルの石川康晴代表取締役社長が、セクハラ疑惑を受けて3月6日付で同職を退任した。
セクハラについて3月4日付朝日新聞デジタルは「15年8月~18年5月にあった4件が報告された」「4件のうち1件は、石川氏が16年に地方視察した際、女性の店舗スタッフを朝にホテルに呼び出し、本人の同意がないままわいせつ行為に及んだ」としている。ほかの3件は以下のとおりだ。
(1)石川氏が宿泊研修時、LINEで社員に「内緒だよ」とメッセージを送り、部屋に来るよう誘った
(2)店舗スタッフを深夜にホテルのバーへ来るよう誘った
(3)地方在住の店舗スタッフに、東京に来てデートするよう誘った
18年12月に開かれた同社の査問会では、セクハラの事実は認められないものの誤解を受ける行為だったとして厳重注意されるにとどまったが、こうした報道を理由に石川氏から辞任の申し出があり、承認されるに至った。
これは大問題だ。同社の経営理念を拡大解釈してしまったとでもいうのだろうか。経営理念には「仕事上の関係よりも親密で、信頼し合える、家族の次に大切な関係、それがセカンドファミリー。その関係を社員同士、関係各社、お客様へも広げ続けます」とあるが、ここで言う「親密」とは、もちろん男女関係のことではないだろう。
女性の働きやすさをアピールしてきたことも空虚に聞こえてしまう。同社はこれまで、女性活躍推進の取り組みが優良な企業を認定する「えるぼし認定」で優良認定されるなど、女性の働きやすさで数々表彰され、そのことをアピールしてきた。だが、今回のセクハラ疑惑で、それらが偽りだったと捉えられても仕方がないだろう。いずれにせよ、由々しき問題で、社長辞任だけでは済まない可能性がある。
成長に陰り
この騒動で、ストライプの今後に暗雲が垂れ込めている。特に主力のアースの顧客離れが懸念される。アースは20~40代の女性をメインターゲットとしているが、こうした層のセクハラに対する嫌悪感は相当大きいだろう。また、同社は近年、「エシカル(倫理的)」を強調したブランド戦略を打ち出しているが、相反するセクハラ疑惑でブランド戦略に疑問符が付かざるを得ない。こうしたことで顧客離れが起きる可能性が高い。
アースは1999年に誕生した。自然で少女っぽい雰囲気の普段着を提案することをコンセプトとしている。2010年、国民的人気を誇り特に女性から支持されている女優の宮崎あおいさんが、人気ロックバンド「ザ・ブルーハーツ」の名曲『1001のバイオリン』を口ずさむテレビCMを放映したのをきっかけに、人気が一気に高まった。
それ以降、ストライプはアパレルブランドを次々と立ち上げている。12年に男女向けの「セブンデイズサンデイ」、14年に家族向けの「KOE(コエ)」、16年に女性向けの「アメリカンホリック」などを立ち上げた。
事業領域も拡大させた。15年に事業領域を「アパレル」から「ライフスタイル&テクノロジー」に転換し、アパレルにとらわれない事業展開を進めていった。たとえば、「コエ」の派生業態で、飲食店と衣料品店を併設した「コエハウス」を16年に東京都目黒区に開いたほか、ホテルと飲食店、衣料品店を併設した「ホテルコエトーキョー」を18年に同渋谷区にオープンしている。
独自のインターネット通販モールも18年から始めた。ソフトバンクとの合弁会社、ストライプデパートメントが運営し、オンワードホールディングスやレナウン、三陽商会など大手アパレルが参加している。
こうしてアースを核に事業領域を拡大させ、成長を果たしてきた。ただ、最近は成長に陰りが見えている。決算広告によると、19年1月期の売上高は前期比微減の914億円、営業損益は前期の赤字から脱したものの、3億9000万円の黒字(前期は15億円の赤字)にとどまった。売上高営業利益率はわずか0.4%だ。純損益は16億円の黒字だったが、前期は14億円の赤字だった。19年1月期のグループ連結売上高は1364億円で、前期から30億円超増えたものの、以前と比べると伸びは鈍化している。
上場も不透明な状況
上場も黄色信号が灯る。16年3月に社名をクロスカンパニーからストライプに変更し、同年夏にも東京証券取引所への上場を狙ったが延期に追い込まれた。その後も延期が繰り返され、今のところ実現されていない。上場が延期している理由として石川氏は、18年5月10日付のファッション情報誌「WWD JAPAN」(INFASパブリケーションズ)のインタビュー記事で「ストライプデパートメントが立ち上げ直後で不安定」なことと、「中国事業の赤字がネック」になっていることを挙げている。
一方で、上場の延期が続いているのは、今回のセクハラ疑惑が露見し、それが問題視されたためとする見方がある。今回のセクハラ疑惑は前述した通り15年以降のものだが、上場を狙った時期と重なる。こうしたセクハラが一部関係者に漏れ、上場延期に追い込まれたとの見方だ。これは憶測にすぎないが、あり得ない話ではないだろう。いずれにせよ今回のセクハラ疑惑でストライプのコーポレートガバナンス(企業統治)に疑問符が付き、早期の上場は怪しくなってきた。
同社のコーポレートガバナンスの問題をめぐっては、過去に「ブラック企業大賞」の「業界賞」を受賞するほどまでに労働環境が悪化し、問題視されたことがある。入社わずか5カ月で店長に任命された女性正社員が、極度の過労・ストレスが原因で亡くなった(09年10月死亡)として、労働災害と認定されたのだ。「売り上げがとれなければ給料も休みも与えない」といった売り上げ目標達成の上司からの圧力があったという。こうしたことが起きたため、同社は「ブラック企業」のレッテルを貼られた。
このようにストライプは、過労自殺者を出したり、セクハラ疑惑が浮上するなど、不祥事が続いている。これでは同社のコーポレートガバナンスは機能していないと言われても仕方がない。上場会社にふさわしいとはいえないだろう。それに加えて同社は、成長に陰りがみえている。そうしたなかで、セクハラ疑惑に対する対応を誤れば上場どころか業績悪化で深刻な事態に陥りかねず、社長辞任だけでは済まなくなる可能性もある。今後の行方に関心が集まる。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)