<建材・住設機器大手のLIXILグループが、ホームセンター事業を手掛ける上場子会社LIXILビバを売却する検討に入った。LIXILグループは、LIXILビバの約53%の株式を保有しているが、全株式を売却する意向とみられる>
「日経ビジネス」(電子版)が2月7日に報じた。LIXILグループは10日、「事業ポートフォリオの見直しを継続していることは事実だが、現段階で決定している事実はない」とコメントした。報道をLIXILグループが追認したと株式市場では受け止められた。報道を受け、東証1部上場のLIXILビバの株価は上昇。2月13日、一時、昨年来高値の2424円をつけた。20年1月6日の大発会の始値1953円の24%高だ。TOB(株式公開買い付け)への期待から買われた。
ホームセンター事業は、経営の主導権をめぐり瀬戸欣哉CEOと対立した創業家の潮田洋一郎前CEOが愛着を持っていたとされる。ホームセンターはLIXILグループの前身の1つで、のちにトステムとなるトーヨーサッシの子会社の初代ビバホームとして1977年に設立。87年に東証2部上場(89年東証1部へ指定替え)を果たした。2001年、グループ事業を再編。小売事業を2代目ビバホームへ営業譲渡し、旧会社(初代ビバホーム)はトステムが吸収合併するかたちで上場廃止となった。その後、ビバホームはトステムビバ、LIXILビバと商号を変更した。
LIXILグループの100%出資子会社となったLIXILビバは17年4月12日、東証1部に再上場した。初値は1947円で公募・売り出し価格(公開価格)の2050円を下回り、投資家を失望させるスタートとなった。
創業家の潮田から解任された瀬戸が返り咲く
創業家出身の潮田会長(当時)は、プロ経営者に経営を任せた。日本GE会長だった藤森義明氏を三顧の礼をもって迎えた。しかし、潮田氏と藤森氏の蜜月は長く続かなかった。11年8月、藤森氏を社長に据えたが、2年後には社長交代を考え始め、16年6月、あっさりクビにした。瀬戸氏も藤森氏と同様、プロ経営者として社長兼CEOに迎えられたが、18年10月末、潮田氏から解任された。会長の潮田氏が後任のCEOに就いた。
潮田氏はLIXILをMBO(経営陣による買収)して上場廃止にし、シンガポールへ本社を移転することを模索したが、瀬戸氏がこれに強く反対した。解任された瀬戸氏は巻き返しに出た。潮田氏を中心とする経営陣(会社側)と瀬戸派に割れ、経営の主導権をめぐって激しく対立。約8カ月後の19年6月の株主総会で瀬戸氏が株主の支持を受けてCEOに返り咲いた。LIXILグループの経営混乱を簡単にまとめるとこうなる。
潮田路線否定の第1弾は持ち株会社制の廃止
瀬戸氏は復帰後、潮田路線の否定に動いた。LIXILグループは1月27日、完全子会社である事業会社LIXILと合併し、持ち株会社体制を廃止する検討を始めると発表した。持ち株会社体制は潮田氏のこだわりの一つだった。M&A(合併・買収)による拡大志向が強い潮田氏にとって、純粋持ち株体制こそがガバナンス(企業統治)体制の肝(きも)だ、との思いがあった。潮田氏自身が持ち株会社の会長に就いて、経営はプロ経営者に委ねるというのが潮田氏が描いた統治の姿である。持ち株会社は潮田氏がLIXILグループを支配する核心部分だった。
これに対して、瀬戸氏は持ち株会社体制を解体し、事業会社との一体運営を目指している。その狙いは、はっきりしている。瀬戸体制を強固にし、潮田派の完全一掃を図ることだ。
第2弾がLIXILビバの売却
LIXILビバの売却は潮田路線の全否定の一環である。LIXILビバの上場を潮田氏は自身の成果として挙げている。だが、経営の実態をつぶさに見てみると、LIXILビバの取り扱い商材のなかでLIXIL製品のシェアは必ずしも高くない。LIXILビバを傘下に抱えることを、瀬戸氏は疑問視していた。“親子上場”に対して海外の投資家の批判が強いことも売却方針を固めた理由の一つだ。
LIXILビバの20年3月期の決算(単独)の売上高は前期比7%増の1930億円、営業利益は14%減の93億円、純利益は72%減の51億円の見込み。主力のホームセンター事業が苦戦している。LIXILビバの既存店売上高は消費増税後の19年10月(11.0%減)、11月(4.5%減)、12月(7.4%減)、20年1月(6.0%減)と前年同月の実績を4カ月連続で割り込んでいる。
19~21年度の中期経営計画で、10万点以上の商品を扱うホームセンター「スーパービバホーム」を核に、食品スーパーや書店などが入居する複合大型店「ビバモール」を10施設開く方針を掲げた。競争力のあるテナントを誘致して30~40歳代の新規顧客を開拓する狙いだ。ホームセンターのショッピングセンター化で、業績の浮上を図る作戦である。
LIXILビバを買収するのはどこだ
ホームセンター市場は長い冬の時代に入っている。ドラッグストア、ネット通販の猛攻を受け、業界全体の売上高は04年以降、年間4兆円弱と横這いだ。その一方で店舗数は増え続けており、経営効率は悪化している。地方の中堅ホームセンターが単独で生き残るのは難しい状況で、業界再編に拍車がかかる。
ホームセンター業界4位のコーナン商事(大阪・堺市/東証1部上場)は19年6月、LIXILグループ系列のプロ向け建材卸、建デポ(東京)を子会社にした。買収額は240億円。コーナン商事にとって過去最大のM&Aだった。
建デポは15年8月、LIXILの建デポ事業部が分社化して発足。建築、土木、電気工事、住宅設備などに関わるプロの業者を対象にした会員制の卸で、一般消費者向けの小売りは手掛けていない。19年3月期の売上高348億円、当期損失が327万円。建テポの売上高が加わるため、コーナン商事の20年3月期の売上高は前期比9%増の3643億円の見込み。新潟発祥の大手ホームセンター、コメリ(東証1部上場、20年3月期の売り上げは3493億円の予想)を抜いてコーナン商事が業界3位に浮上する。
業界最大手はホーマック、カーマ、ダイキの3社が経営統合してできたDCMホールディングス(同東京、東証1部)。20年2月期の売上高は4495億円としている。2位は食品スーパーのベイシア(非上場)グループのカインズ(埼玉、非上場)だ。ベイシアグループは急成長している作業服販売チェーン、ワークマン(JQ上場)を擁している。カインズの19年2月期の売上高は4214億円だった。
LIXILグループはLIXILビバの株式を52.22%保有(19年9月末時点)している。全株を売却すると、買収するのに最低500億円は必要となる。単独での買収は資金負担が大きい。そこで投資ファンドと組んで買収することになるだろう。DCMか、それともカインズか。はたまたコメリなのか。建デポを買収した縁でコーナン商事ということがあるかもしれない。どこが買収しても、ホームセンターの勢力地図が大きく変わる。
(文=編集部)