「無印良品」を展開する良品計画の先行きに暗雲が垂れ込めている。
新型コロナウイルスによる肺炎の影響で、2月6日までに無印良品の中国内の休業店が約140店まで拡大した。中国内の半数以上が休業に追い込まれたかたちだ。
中国での無印良品の店舗数は2019年11月末時点で265店と、日本(437店)に次ぐ規模となっている。海外すべての店舗数は524店で、中国だけで半数を占める。中国ではこれまで年30店ほどのペースで新規出店してきた。大型店の出店も強化しており、14年に成都、15年に上海、18年には南京、19年1月に杭州にも出している。
さらに、中国では店舗改装も積極的に行っている。年に20店舗で行う目標を掲げ、19年2月期は15店舗で実施した。
現地での商品開発も進めている。中国市場でのニーズに合った商品を展開するため、18年9月に中国で商品開発部を設立。19年3月から現地開発商品の販売を開始した。まずは、マットレスとベッド台、シーツのサイズを世界共通サイズから中国における標準的なサイズへと変更している。
たとえば、マットレスは全販社共通で幅は100cm、140cm、160cm、180cmだったが、中国における標準的なサイズである120cm、150cm、180cmに変更した。また、丈(長さ)も195cmから200cmに変更している。
こうした変更により、他社のベッド台やマットレスなどと無印良品の商品とを合わせることができるようになった。
ほかに、中国の生活様式に合わせて開発したステンレス保温保冷マグや木製フレームソファーなどの新商品を投入し、好評を得ているという。今後は家電や食器なども開発し、売り上げを向上させたい考えだ。
良品計画はこうした施策で中国市場を開拓し、店舗網を拡大させてきた。だが、新型コロナウイルスによる肺炎の影響で、今後の成長に黄色信号がともっている。今後の動向は予断を許さない。
生活雑貨が伸び悩み
一方、国内事業はどうか。良品計画の19年3~11月期における国内事業の営業収益は、前年同期比8.8%増の2057億円と大きく伸びた。同期において店舗数が20店増えて478店に拡大したほか、国内無印良品の既存店売上高が前年同期比5.1%増と大きく伸びたことが寄与した。
このように国内事業が好調だったほか、海外事業が新型コロナウイルスの問題が露見する前で好調だったため、19年3~11月期の良品計画の連結営業収益が前年同期比7.9%増の3282億円と大きく伸びた。
こうしてみると、中国事業に不安を抱える一方で国内事業は盤石のように思える。だが、良品計画(単体)の商品別売上高をよく見てみると、不安材料が浮かび上がってくる。国内も今後は予断を許さない。
売上高で4割を占める「衣服・雑貨」の19年3~11月期の売上高は、前年同期比21.3%増の1013億円と大きく伸びた。「食品」も14.9%増の202億円と、規模は小さいものの大きく伸びている。5割を占める「生活雑貨」は2.3%増の1251億円だった。
いずれも増収なので不安材料はないようにも思える。しかし、生活雑貨の伸び率が鈍化している。これが不安材料といえる。同部門の17年3~11月期の伸び率が10.6%、18年3~11月期が5.2%だったので、19年3~11月期の伸び率(2.3%)は満足できるものではないだろう。また、全体の伸び率(10.5%)と比べて圧倒的に低いので、生活雑貨は伸び悩んだといえる。
さらに、生活雑貨の内訳の伸び率を見てみると、より具体的な不安材料が浮かび上がってくる。それは「家具」の売上高が落ち込んだことだ。家具は生活雑貨における売上高で26%を占める主力商品だが、19年3~11月期は前年同期比1.7%減とマイナスだったのだ。
ニトリとの競合度合い高まる
家具の販売ではニトリホールディングス(HD)が展開する家具チェーン「ニトリ」や、雑貨店「デコホーム」との競争が激しくなっている。少し前までニトリは郊外ロードサイドを主戦場としていたため、同立地にあまり店舗がない無印良品との競合度は低かった。しかし、近年はニトリやデコホームが都市部や商業ビルに積極的に出店するようになり、同立地を得意とする無印良品との競合度は高まっていった。これが影響し、無印良品の家具の販売が落ち込んだ面がある。
「ファブリックス」(布製品)もニトリHDの脅威にさらされている。直近本決算の19年2月期のファブリックスの売上高は、前期比1.2%減と落ち込んだ。また、家具は4.7%増だったが、全体が8.9%増と大きく伸びているので、家具は伸び悩んだといえるだろう。家具とファブリックスは18年2月期も伸び悩んでおり、全体が11.2%増だったなか、家具が0.3%増、ファブリックスが7.2%増にとどまっている。17年2月期も同様に伸び悩んだ。
ニトリHDの攻勢はまだまだ続いているので、当面は無印良品の家具とファブリックスが苦戦を強いられる可能性は低くない。
現在好調の衣服・雑貨も、中長期的にはニトリHDにやられる可能性がある。無印良品は中価格帯の衣料品を扱うが、最近、ニトリHDが中価格帯の衣料品を扱う店舗を本格展開し始めたためだ。
ニトリHDは「N+(プラス)」のブランドで女性向けの衣料品の販売を始めた。将来における家具の頭打ちを見越し、新たな収益源として衣料品に目をつけたというわけだ。現在、東京、埼玉、千葉の1都2県に4店舗を展開している。商品のデザインはどれもシンプルで、価格帯は定価で1点2000~5000円程度だ。
Nプラスと無印良品の衣料品は、デザインがシンプルという点で共通している。ただ、趣はやや異なるので、デザインにおいて真正面からぶつかることはなさそうだ。もっとも、価格が同程度のため、まったく競合しないとはいえないだろう。
Nプラスは現状わずか4店舗しかなく、無印良品にとって脅威ではない。だが、近い将来に急激に店舗網が拡大する可能性がないわけではない。ニトリHDが規模の大きい衣料品チェーンを買収して傘下に収め、手に入れた店舗をNプラスに転換して一気に店舗数を増やすことも考えられる。そうなれば無印良品にとって大きな脅威となるだろう。
こうしたことを考えると、良品計画の業績が現在好調でも、安穏とすることはできない。短期的には、新型コロナウイルスの影響で業績が大きく悪化する恐れがある。中長期的にはニトリHDとの競争激化で大きな打撃を被る可能性がある。十分注意する必要があるだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)