ステーキチェーン「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスの業績が深刻だ。2月14日発表の2019年12月期連結最終損益は、27億円の赤字(前期は1億2100万円の赤字)だった。最終赤字は2期連続となる。
売上高は前期比6.3%増の675億円、営業損益は7100万円の赤字(前期は38億円の黒字)だった。営業赤字は上場以来初めて。
売上高で8割超を占めるいきなりステーキ事業の不振が足を引っ張った。同事業の19年12月期の既存店売上高は、前期比30.2%減と大きく落ち込んだ。不振は止まらず、1月は前年同月比33.5%減と大幅マイナスになっている。マイナスは22カ月連続で、さらに30%超のマイナスは6カ月連続だ。
同社はいきなりステーキの不振の理由として「自社ブランド同士の競合」を挙げている。いきなりステーキの店舗同士で顧客の奪い合いが起き、既存店売上高が低下したという。これは間違いではない。確かに自社競合が発生しているケースはいくつも確認できる。
ただ、自社競合は副次的な要因にすぎない。それよりも、いきなりステーキの競争力低下のほうが大きい。競争力が低下したため、それほど気にする必要がなかった自社競合を気にせざるを得なくなった、というのが正しい見方だ。
競争力が低下したのは、コストパフォーマンスが低下したことが大きい。いきなりステーキは安さが売りだったが、何度か行われた値上げにより安い印象が薄れてしまった。それでもステーキの品質が高まっていれば問題はなかった。だが、いきなりステーキのステーキ品質は高まっておらず、問題を抱えたままになっている。
問題とは、一部のステーキが固く、当たり外れがあることだ。ネット上の口こみを確認すると、それを指摘する声が少なくない。
ステーキが固いことは、ペッパーフードサービス自身も認識している。看板商品の「ワイルドステーキ」が固いと叱られていて、そのことを謝罪する張り紙を店頭に掲出している。
また、ステーキに当たり外れがあることは、同社が1月に発行した「社内報」の「社長から皆さんへ」と題した文章で確認できる。以下に抜粋した。
「ワイルドステーキは、当たり外れがあるステーキであった事が現実です。私は猛反省をしています。こんなことがあって良いわけがありません。私は今、硬いステーキを召し上がったお客様の持つイメージが、そのまま『いきなりステーキ』の悪評判になる事を阻止しなければならない事に遅まきながら気がつきました。この知名度の高くなっている当店で初めての『ワイルドステーキ』をご家族、友人の方々に話される事は、想像に難くありません。この様な事が絶対にあってはなりません」(原文ママ)
こうした問題は当然、解決する必要がある。柔らかい肉を仕入れるようにしたり、固い部分を取り除くようにしたりすることが必要だろう。ただ、これだけでは不十分だ。たとえ柔らかいステーキを提供し続けたとしても、それだけでは「いきなりステーキのステーキは固くない」「当たり外れはない」というイメージを消費者に広く浸透させることは難しい。できたとしても、膨大な時間がかかってしまう。やはり、ステーキが柔らかいことを訴求する宣伝広告が欠かせない。
69億円調達でも広告宣伝費に回らない可能性
ところで、ペッパーフードサービスは昨年12月27日に69億円を調達予定額とした新株予約権を発行すると発表したが、69億円を調達した場合、13億円をテレビCMなどの広告宣伝費に充てるとしている。この広告宣伝費の一部をステーキが柔らかいことを訴求することに充てるべきだろう。しかも、ありきたりの広告宣伝ではなく、「ステーキが固かったら全額返金」といったような思い切った広告宣伝をする必要がある。
ただ、こうした広告宣伝ができない可能性もある。株価などの状況により新株予約権の権利行使が進まず、予定の69億円を調達できない可能性があるためだ。同社は借金である長期借入金が82億円(19年12月末時点)にまで膨れ上がっているが、もし十分な額の資金が調達できなければ、こうした借入金の返済に調達資金の大部分を優先的に振り向けざるを得なくなり、広告宣伝費に十分資金が回らないということが起きかねない。
同社は財務内容が大きく悪化しており、十分な額の資金が調達できなければ早晩経営が行き詰まるだろう。19年12月末時点の現預金は1年前から42億円減ってわずか24億円となっており、現預金の枯渇危機に瀕している。また、自己資本は1年前から30億円減って4億6000万円にまで激減した。それに伴い、自己資本比率は13.6%から2.0%にまで低下している。
こうした財務内容の悪化は、いきなりステーキの販売不振が原因だ。そのため、販売不振から脱却できなければ、たとえ69億円調達できたとしてもすぐに食い潰してしまい、財務内容を改善させることはできない。
そうしたなか、安さを売りとするステーキ店が増えるなどステーキ業界は競争が激化している。
沖縄を中心に店舗展開する「やっぱりステーキ」は税込み1000円で200グラムのステーキを武器に勢力を拡大している。最近都内で増えている「ステーキマックス」はランチで税抜き1000円で300グラムのステーキを売りとし、人気を博している。イオンの「ガブリングステーキ」は1000円前後のステーキを販売する。
牛丼チェーン「松屋」を展開する松屋フーズホールディングスはステーキ店「ステーキ屋松」の展開を始めたが、税込み1000円で200グラムのステーキを提供する。ファミリーレストラン「サイゼリヤ」では、税込み999円のステーキを提供している。
こうした格安ステーキを提供する店が存在感を増している。これらと比べると、いきなりステーキの割高感はさらに増す。品質向上も重要だが、値下げなどで割安感を演出することも必要だろう。両方を見直し、コスパを高めるべきだ。
いずれにせよ、販売不振から脱却してこうした競合との競争に勝つために、早急に抜本的な対策を講じる必要があるだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)