東京ディズニーリゾート(TDR)、すなわち東京ディズニーランド(TDL)と東京ディズニーシー(TDS)の大人1日券が4月から現行より700円高くなり8200円(税込み、以下同)になることが発表され、波紋を呼んでいる。
「めっちゃ高い」「夢を楽しむのもやっぱりお金なのですね」など、価格の高さを指摘する悲鳴に近い声が多数上がっている。値上げは大人1日券を含めて13種類で実施する。大人以外の1日券は、中学・高校生が400円上げ6900円、幼児・小学生は4900円で据え置く。大人の年間パスポートは6000円上げ6万8000円となる。値上げは、消費増税に伴って実施した昨年10月以来となる。
ネット上では悲鳴が多く聞かれたが、一方で株式市場はこのチケットの値上げを好感しているようだ。TDLとTDSを運営するオリエンタルランドの株価は、値上げ発表翌日の1月31日に一時、前日比520円(3.7%)高の1万4650円まで上昇した。値上げと併せて発表された2019年4~12月期連結決算が減収減益だったにもかかわらず、収益が高まるとの期待から買いが優勢になったようだ。
19年4~12月期連結決算は、売上高が前年同期比2.4%減の3902億円、営業利益は5.3%減の1010億円だった。テーマパーク事業において、前期にTDR開業35周年イベントで関連商品の売り上げが伸びていた反動が出た。だが、株式市場では織り込み済みのようで、株価にはあまり影響を与えなかった。
20年3月期は前期の35周年イベントの反動で入園者数が苦戦するとの見方もあったが、新アトラクション「ソアリン」が好調だったこともあり、19年4~12月期の入園者数は前 年並みを確保した。
これは大きな意味を持つ。というのも、10月の消費増税に合わせて値上げしたほか、秋は台風が関東地方に上陸したほか、雨の日も多く天候に恵まれなかったため、入園者数が前年を大きく下回ってもおかしくなかったにもかかわらず、前年並みを確保できたためだ。ソアリンのような魅力的なアトラクションがあれば集客できることを、あらためて示したといえよう。
また、TDLとTDSの2パーク開園以来最大規模の約750億円を投じて、映画『美女と野獣』をテーマとする新エリアを今年4月にTDLに開業し、大きな集客が見込めることもあり、前回の値上げからわずか6カ月しかたっていないが、再び値上げすることに踏み切ったとみられる。
値上げしても客離れしない理由
もちろん、今回の値上げで顧客離れが一気に進むことは十分考えられる。今回の値上げ率が過去と比べて極端に高いためだ。
今回の値上げでは、主力の大人1日券の値上げ率は9%にもなり、過去の値上げ時よりも大きい。19年10月時の値上げ率は1%(100円高)、16年4月時は7%(500円高)、15年4月時は8%(500円高)、14年4月時は3%(200円)だった。これらと比べると今回の値上げ幅は大きい。急激に高くなったことを嫌気して離反する人はいるだろう。
ただ、TDRはほかでは味わえない魅力があり根強いファンがいるため、今回の値上げでも顧客離れは限定的だろう。一方で来園者1人当たり売上高が大きく上昇することが予想されるので、収益は高まるのではないか。
根強いファンがいることを示すひとつの指標として「顧客満足度」が挙げられるが、TDRの顧客満足度は高まっている。日本生産性本部・サービス産業生産性協議会が発表している「日本版顧客満足度指数(JCSI)」において、TDRの「顧客満足」の順位が近年上昇傾向にあるのだ。
もっとも、少し前までは顧客満足の順位は低下していた。14年度までは1~2位を維持していたが、15年度は11位に急落、16年度に27位、17年度は36位に後退した。しかし、18年度は一気に8位に急上昇したのだ。18年度の顧客満足スコアは81.1となり17年度(77.1)から大きく上昇した。そして19年度第3回調査では81.9となった。近年は顧客満足の順位とスコアが上昇傾向にある。根強いファンがいることの証左といえるだろう。
ライバルのユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が値上げを続けているにもかかわらず好調なことも、値上げによるTDRの顧客離れが限定的と考える根拠のひとつだ。
USJは18年1月末に9年連続となる値上げを実施した。大人1日券は300円引き上げて7900円にした。これは現在のTDRよりも高い。このように値上げを続けても、入園者数は16年度まで3年連続で増加した。17年度以降は入園者数の正式な公表が行われていないので正確な数値は不明だが、17年度も前年を上回ったことが確実視されている。18年度も入園者数は落ちていないとの見方が大勢を占める。映画『ハリー・ポッター』エリアの誘致などでパークの魅力が高まったことが功を奏し、値上げに対する不満を和らげることに成功しているのだ。
USJは19年1月10日にも実質的な値上げをしている。混み合う時期に応じて価格を変える「変動価格制」を導入し、これによりチケット価格は時期によって異なるようになった。たとえば、今年のゴールデンウィークのピークとなる5月2~5日の大人1日券の価格は8900円だが、連休最終日の6日と平日の7日、8日は7800円と一気に1100円も下がる。このように価格が変動するため比較が難しいが、導入前の価格(7900円)より高い日が多く、全体では値上げの色が濃い。
詳細は不明だが、価格変動制の導入で入園者数が減ったという話や不満の声はほとんど聞こえてこない。USJの現状の価格は、概ね受け入れられているのではないか。
海外のディズニーパークより安いTDR
海外と比べて価格が安いことも根拠のひとつだ。ディズニーランドは東京のほか、米カリフォルニア、フロリダ、中国・香港、上海、仏パリの世界6都市に展開しているが、日本が最安値でカリフォルニアの約半分だ。6都市の生活水準などを考えても、TDRの値上げの余地はまだまだあるのではないか。
こうしたことを総合的に考えて、TDRの今回の値上げは成功すると筆者は考える。入園者数は減る可能性があるが、減ったとしても一部にとどまり、一方で来園者1人当たり売上高が大きく高まり、オリエンタルランドの収益性は向上するだろう。
オリエンタルランドの前期(19年3月期)の連結決算では、売上高(5256億円)と営業利益(1292億円)がともに過去最高だった。だが、今期(20年3月期)見通しは売上高が前期比4.1%減の5038億円、営業利益が15.8%減の1088億円の減収減益となる。そうしたなか、4月からの値上げで収益性を高め、来期(21年3月期)は増収増益を達成したいところだろう。いずれにせよ、この値上げの動向に関心が集まる。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)