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村澤典知「時事奔流 経営とマーケティングのこれから」

平均5万円…高級化するランドセル、なぜ狭い市場に多数企業が殺到&注力?

文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員

 祖父母から孫への支出は、おもちゃ、絵本、衣類などさまざまだが、6年という長い期間にわたって使用され、しかも罪悪感を持たずに買い与えられるランドセルは、これ以上ないうってつけのものだ。実際に、「ランドセル&入学準備白書(2015年)」によると、ランドセルの出資者の約7割は祖父母になっている。冒頭で、ランドセル商戦が前倒しされていることに触れたが、これはゴールデンウイーク中に、祖父母が子どもに会った際に買ってもらうことを狙っているものだ。

 また、もうひとつの成功要因としては、積極的な高付加価値化と希少性の演出があげられる。昨年、三越伊勢丹では、イタリアの革職人が色染めから装飾まで手づくりしたランドセルを17万円で販売していた。老舗メーカーの土屋鞄(かばん)製造所も、創業50周年記念に合わせて、フランス・ノルマンディー地方の牛革を採用したランドセル「軽井澤」を14万円で販売した。

 このような高級化路線は百貨店や専門店に限った話ではない。イオンリテールは、かぶせの部分全面に5万針もの豪華な刺しゅうをあしらったランドセルを10万円で販売。イトーヨーカ堂も、色やデザイン、装飾など約1万5,000種類から選べる「パターンオーダー」のランドセルの販売を開始した。このように、現在のランドセル市場は、特定の業態に限らず全般的に素材へのこだわりや職人の手づくり、オーダーメード等によって高級化を進め、同時に数量限定や早期の販売終了によって、多少高くても「今買わないと後で後悔するかもしれない」という心理的な状況をうまくつくり出している。

 ただし、この数量限定や早期の販売終了は、高級車のフェラーリのように希少性を保つために販売制限するというよりは、実際に色染めや装飾等の各工程で求められる品質レベルが高まったことや、パターンの多様化により生産工程が複雑化したことで、注文を受けてから材料を調達し、生産するまでの時間が大幅に増えたことによる側面も大きい。

「データ」の価値から見るランドセルの魅力

 ランドセルの高級化が進んだとはいえ、それでも毎年入学する子どもの数は約100万人と限られているため、500億円前後の限られた市場には間違いない。その規模にしては、百貨店やGMS、専門メーカーなど多様なプレイヤーがこぞって必要以上に顧客獲得に注力しているように見える。その背景には、企業の側から見た場合、ランドセルには単なる1個数万円の売上以上の魅力があるからだろう。

村澤典知

村澤典知

インテグレート執行役員、itgコンサルティング執行役員。一橋大学経済学部卒。トヨタ自動車のグローバル調達本部では、調達コスト削減の推進・実行を中心に、新興国市場での調達基盤の構築、大手サプライヤの収益改善の支援に従事。博報堂コンサルティングでは、消費財・教育・通販・ハイテク・インフラなどのクライアントを担当し、全社戦略、中長期戦略、マーケティング改革、新規事業開発、新商品開発の導入等のプロジェクトに従事。A.T.カーニーでは、消費財・外食・自動車・総合商社・不動産・製薬業界などの日本を代表する企業のグローバル成長戦略、中期経営計画、マーケティング改革(特にデジタル領域)、M&A、組織デザイン、コスト構造改革等のプロジェクトに従事。2014年より現職。大手メーカーや小売、メディア企業に対し、データ利活用による成長戦略やオムニチャネル化、新規事業開発に関する戦略策定から実行までの支援を実施。


株式会社インテグレート

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