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突然600人全員解雇…タクシー業界が緊急事態宣言で“どん底”に、時給500円で最低賃金以下

文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー
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「gettyimages」より

 安倍晋三首相が「緊急事態宣言」を発令した翌日の4月8日、午前11時。千葉県某駅のタクシープールを見ると、入る余地がなくなっていた。「いつもなら朝は3台くらいしか待ってなくて、簡単に入れるんですけどねぇ。ここ1週間ほど、ずっとこんな感じです」と、運転手がため息まじりでこぼしていた。

 有給休暇を取ると給料が下がってしまうらしいが、「2コロ(1日の売り上げが2万円台)なら取ったほうがいい。3コロなら出たほうがいい。どちらになるかは出勤してみないとわからないですが、この調子だと今日はおそらくダメです」と語る。3月下旬から夜の動きが鈍くなり「終電後は3時間待ちもザラ。ワンメーター(500円)の後に5000円の客が乗ってきたりね」という。

 通常なら3月や4月は異動の時期で歓送迎会が多く、飲食店が潤うので、タクシーにとっても12月に続く稼ぎ時だ。しかし、新型コロナウイルスの影響で現在の時給は実質500円台となっている。最低賃金を大幅に下回る状況など、誰にも予測できなかった。

台数増も乗客大幅減、月収は3分の1に

 通常、午前中はナイト勤務の車がおらず、昼間勤務や隔日勤務の車が動き回っている。乗客の多い日は“タッチアンドゴー”(駅までの乗客を降ろした後、すぐに乗せるパターン。空車時間が少なくて済む)で売り上げも1時間3000円、時給にして1500円ほどだが、4月に入ってからは「昼間しか動かないから、ナイト勤務が早めに出勤し始めた。その影響で車が多すぎて、1時間に1回しか乗せられない。ワンメーターだとガックリします」(前出の運転手)と嘆く。1時間待って500円では帰りたくなる。

 別の運転手は「普段なら1日平均5万円いけるけど、今は2コロだよ。俺たちは2日で1出番だから、2コロだと手取り1万円、日給5000円。みんな『1コロナ、2コロナ』と『ナ』をつけてこぼしている」。今や、やる気ゼロの状況だ。

 都内勤務の運転手にも話を聞いた。

「いつもなら番付(営業所に張り出される乗務員別の売り上げ)下位で5万、上位で8万だけど、今は1~3万だね。この前、新橋で夕方6時に手が挙がったんだ。前の個人タクシーを無視していたから“チケット客だ!”と急停車すると、埼玉の久喜までだった。2万3000円の客だったから助かったけど、そうそうないよ」とのこと。

 都心において、コロナ感染を恐れて電車に乗りたくないチケット客が早い時間からタクシーで帰宅するパターンは、少しだが増えたという。

 タクシーは「客」と「台数」の関係で需給バランスが保たれる。たとえば、一定のエリアでタクシーが100台、1時間の乗客数が300人なら、乗せる回数は1台あたり3回となる。そんな両者の関係が、今は1対1にまで落ちている。会社が休業補償をして運転手を休ませ、動く台数を減らしたほうがいいとも感じるが、「車を出すほど金が入る」と考える経営者も少なくない。台数の多い会社なら、なおさらだ。

 つまり、休むかどうかは運転手に任せる会社がほとんどだ。そんな中、ハンドル時間(最低走らなければならない時間)はなくなりかけている。今の状況でハンドル時間など、無意味だからだ。台数が多いほど、LPガスの経費が増えるだけである。

 また、足切り(=歩合率)の引き下げも、いまだされない会社がほとんどだ。「1日平均3万円=月75万円(月25日のナイト勤務の場合)に2カ月連続で達しなければ歩率条件が低くなる」と規定されている会社の運転手は「2月、3月と2カ月連続で足切りに届かなかった。手取りは5~7万円のレベル。年金が出たらタクシー辞めようかなぁ」と嘆いていた。

 別の運転手など「雇用保険をもらいたいから今すぐクビにしてくれと会社に言ったところ、自主退職ならいいが会社都合ではダメだと言われた」と答えてくれた。

 乗務員を大切にしているか否か、こういうときに会社の姿勢が見えてくるものだ。

600人全員を解雇するタクシー会社も

 4月8日、都内のタクシー会社・ロイヤルリムジングループが約600人の従業員全員を解雇することを真昼の公園で発表した。「全員解雇」と聞くと非情に思えるが、実情は異なる。

 会社都合での解雇としたのは、雇用保険で即座に従業員を救えるからだ。タクシー業界の場合、休業補償をしても基本給の約60%にしかならない。完全歩合のシステムだけに、基本給のほか、深夜手当や職能給などの項目に金額が書かれているが、すべてが「適当」である。月に30万円売り上げても基本給は6万円ほどだ。加えて、いつもらえるか定かではない休業補償では、運転手の手取りは雀の涙となる。

 ならば雇用保険を使ってもらったほうが運転手を救うことができるわけで、つまりは苦渋の決断だ。しかも、会社都合なら1週間後に最大260万円(最大11カ月=月割計算)が支払われる。逆に自己都合では保険がおりるのが早くて3カ月後。金額は最大118万円にしかならない。支給日数も、長くて5カ月だ。

 会社都合による退職の場合、厚生労働省からの助成金がもらえなくなるケースがあるが、今はそんなことは言っていられない。つまりは、運転手に一番喜ばれる決断をしてくれたのだ。

 同社の金子健作代表取締役名義によるアナウンスには「当社は生き残りをかけ、一旦事業を休止することを決断しました。(中略)混乱の中少しでも早く、皆様が円滑に失業手当をもらえるために決断した次第です。また、政府からの30万円の給付金もしかりです。タクシー事業の休業補償は歩合給と残業の給与体系のため、失業手当より不利なためこの選択をしました」とある。

 そして、最後に「長い人生の中で土砂降りの時もあるものです。神戸の震災で友人をなくし、家業もなくし、家も全壊となりましたが、私の家は復活しました。私にはその復活のDNAが流れています。(中略)そして完全復旧した暁には、みんな全員にもう一度集まっていただき、今まで以上に良い会社を作っていきたいと思います。かならず皆さん、再会しましょう!」と再雇用を約束している。

 再びハンドルを握れるようになるまでどれくらいかかるは、今は誰にもわからない。その間、アルバイトを探したり勉強をしたりするなど、一人ひとりががんばるしかない。

 今はつらいが、朝の来ない夜はない。タクシー運転手よ、今は踏ん張って明日につなげよう。

(文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー)

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

1966年千葉県生まれ。東京都内の中小会社でタクシードライバーを兼務するライター。競馬と野球をメインに、雑誌や書籍で執筆をしている。主な著書に『テイエムオペラオー伝説』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(ともに星海社、共著)などがある。

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