筆者は4月10日付本連載記事で「マスクの次に襲う食料不足」と述べたが、なぜそんなに心配しているのか、その根拠となる具体的なデータを紹介しよう(数値は財務省貿易統計より)。
世界からの日本への輸入全体を見ると、今年1月単月では、金額ベースで前年比▲(マイナス)3.6%、数量ベースで▲1.7%、2月は金額・前年比▲13.9%、数量・同▲17.3%と減少している。金額ベースでは、昨年5月から今年2月まで10カ月連続で前年を下回っているので、極端に輸入が減っているとは思えない。しかし数量ベースでは、直近10カ月中マイナスは7カ月あるが、今年2月の減少幅は突出している(表1)。
2月単月で、金額ベースが前年比2桁のマイナスになっている輸入先の国は次の通り。
・アジア:中国(▲47.1%)、香港(▲47.1%)、タイ(▲11.5%)、インドネシア(▲13.9%)、
・大洋州:豪州(▲17.4%)
・北米:カナダ(▲13.1%)、*米国(▲5.9%)
・EU:ドイツ(▲11.9%)、フランス(▲17.3%)、オランダ(▲12.9%)、ベルギー(▲28.0%)
・中東:サウジアラビア(▲11.1%)、クウェート(▲11.7%)、イラン(▲98.0%)
輸入全体なので、食料品も工業製品等もすべて含まれているが、やはり新型コロナウイルスの影響がかなり顕著に出ている。3月の実績が公表されれば、影響はさらに大きくなっていることがわかるだろう。
次に、食料品に特化して比較をする。
1月の食料品の輸入は約5750億円、前年比▲0.4%。2月は約4765億円、同▲9.7%である。2月は1月より約17%減っており、品目別で見ても、すべての品目で前年を下回っている(表2)。一部高級食材を除けば、3月の生鮮食品の販売価格が高かったのは、輸入量が大きく減少した影響もあるだろう。
WHOも食料不足の懸念を警告
では、個別の品目ではどうなのか。もっとも気になる小麦を見てみよう(数値は農林水産省・農林水産物輸出入情報より)。
今年1月~2月の2カ月間累計の輸入実績は、85万7348トン(前年比▲7.9%)、約269億円(同▲11.6%)である。米国、カナダ、豪州からの輸入量を昨年と比べると、以下になる。
米国 :数量▲ 0.1%、金額▲2.3%
カナダ:数量▲11.9%、金額▲16.5%
豪州 :数量▲11.2%、金額同▲16.8%
米国からの輸入量はほぼ同量だが、カナダと豪州からは数量、金額とも前年を2桁下回っている。今年3月、農水省は次のように説明している。
「輸入小麦の直近6ヶ月間(令和元年9月第2週~令和2年3月第1週)の平均買付価格は、豪州での乾燥による減産により価格が上昇したこと、米国・カナダでの昨年秋以降の天候不順による品質の劣化懸念から価格が上昇したこと等により、(製粉会社に売り渡す価格は)前期に比べ上昇しました」
昨年の1年間の輸入実績を見ると、1~2月が特に少ないわけではない。この状況が1年間続くのであれば、今年の小麦の輸入は昨年に比べて2桁の減少になる。米国農務省は今年3月、2019~20年度の世界の小麦の生産量は消費量を下回る見込みだと発表している。もちろん世界的に小麦の在庫は十分あるので、何事もなければ小麦が不足することはないだろう。
しかし、今年も米国等の小麦の大産地が天候不順や干ばつに見舞われ減産ということになれば、見込み以上に生産量が減る可能性がある。さらに今、世界中がコロナショックの状態だ。共同通信は4月11日、次のような記事を配信している。
「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて食料貿易に影響が出始めた。感染症対策のための移動規制で物流が寸断される一方、国内市場を優先する産出国が輸出規制に乗り出したことで穀物価格も上昇している。世界保健機関(WHO)や世界貿易機関(WTO)など3機関は11日までに、輸出管理が広がれば「国際市場における食料不足が起きかねない」とする声明を出した」
小麦粉は、世界的に需要が非常に大きい穀物だ。全世界が「巣ごもり消費」状態である。欧米諸国は家庭でパンをつくるために小麦粉が必要だろう。日本人はパンだけでなく、お好み焼き、たこ焼き、天ぷら等、粉物文化の国だ。巣ごもりには、なくてはならない食材だ。
スーパーでは、小麦粉の買い占めが目立つが、これも「小麦粉が少なくなるのではないか?」という消費者の感覚がそうさせているのかもしれない。店頭在庫がなくなり、流通在庫も減り、国や民間の在庫も減ったとき、輸入量を増大させなければ、店頭在庫は満たされない。国は小麦の在庫をいつまで確保しているのだろうか。
小麦以外でも輸入が十分確保できるか心配な食料品がある。次回はその食料品について考察する。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)