ここで課題となるのが、インフラだ。プリウスのようなハイブリッド車(HV)の場合、新規のインフラ整備は必要なく、ガソリン車と同じ利用環境で対応できる。また、PHVやEVでも、直流急速充電や交流240Vのインフラがなくても、一般家庭や業務施設に交流100V電源は常設されているため、必要最低限のインフラはすでに整備されているといえる。
一方、FCVの場合、燃料は水素であり、水素専用のステーションと、水素の精製し物流させる事業システムの構築が必要だ。国としては、水素ステーションの整備を進めており、2015年度に80カ所だが、20年には160カ所、25年度には320カ所という整備目標を公表している。
こうした水素ステーション整備での課題は、「高い整備費と運営費」だ。現在、一カ所あたりの整備費は約4億円で、欧米の2倍以上の高額だ。その原因は、高圧ガス保安法を主体とした各種の規制緩和が遅れているからだ。同法は本来、自動車を対象としておらず、FCVの登場によって、新たなる解釈と一部法改正が必要なのだ。国は15年を「水素元年」と呼び、こうした規制を関係省庁に横串をさして、積極的に緩和すると明言した。確かに、規制緩和が実行されてはいるが、水素事業の関係者に直接話を聞くと、その多くが
「当初に期待していたほどのスピード感ではない」と語る。
普及への期待は、海外の規制頼みか
こうして、日本国内では先行き不透明なFCV。では、視点を世界市場に移すと普及の可能性が見えてくるのだろうか。
結論を言えば、答えはNOだ。現在、具体的なFCVに関する法整備や普及補助金があるのは、米カリフォルニア州のみ。全米でみると、FCVに対する一般消費者市民からの認知度はまだ低く、具体的な普及策を打ち出そうとしている州は少ない。
また、欧州ではドイツを中心とした欧州では、風力発電や太陽光発電によって水を電気分解して水素をつくり、二酸化炭素を触媒反応させてメタンを合成する実験が進んでいる。こうした過程で、FCVの普及が連動する可能性があるが、その事業規模はけっして大きいとはいえない。
このように、普及について未知数なFCVだが、唯一の可能性は「規制」による普及の後押しだ。この規制とは、アメリカ、欧州、中国でのCAFE(企業別平均燃費)、アメリカのZEV規制法(ゼロ・エミッション・ヴィークル規制法)、中国のNEV(ニュー・エネルギー・ヴィークル)関連の規制、そして地球温暖化対策についての「パリ協定」だ。